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第十二章 「チートスキル」②

「狼が出たぞおー!」


突然の領民の叫び声に、教会内に悲鳴が走った。

神父はわなわなと震え、住民たちも一斉に後ずさった。


アンジェ(川野)は入口近くに現れた黒狼を見て、あっ、肢に金の輪、と気づく。


(だって、あの黒狼って、ラント国のルーク王子でしょ……あれ? 確か、アンジェが湖で溺死寸前になるまでルークは人間だったはず……でも、聖女狩りの男たちに襲われたときは、金の腕輪をしていたよね……これもゲームシナリオとは全然っ違う……そもそもテロで教会爆破とか……破滅ルートにも溺愛ルートにもないよ……まあブーたれてもしょうがないかっ……襲われているアンジェを助けるぐらいだもん……ルークは黒狼になっても優しいとみた……じゃあ、一丁、頼んでみるか……エヘヘ)



「みなさん、大丈夫ですよぉー! 黒狼は襲わないですよー! 安心してくださーい」


アンジェ(川野)の声に、周囲がざわざわと騒ぎ出す。



(いま黒狼だから人気声優の一条椿様ボイス、なし……残念だけど……)


思い出し笑いをしながら、アンジェ(川野)は黒狼に向かって大きく手を振った。



「おーい! こっち、こっち、ヤッホー……ヤッホーじゃないか……ハハハ、黒狼さん、こっちでーす、こっちにお願いしまーす」



黒狼はびくっと身構えたが、アンジェ(川野)が、おいで、おいでと大きく手招きするので、警戒しながらも、一歩ずつ、アンジェ(川野)の近くまで歩み寄った。


と、アンジェ(川野)は、いきなり黒狼のすぐ近くに駆け寄り、「こんにちは」と言って頭を下げた。



(いきなりフレンドリーでびっくりするよね。でも、怖くないって伝えないと)



「黒狼さん、昨日は助けてくれて、ありがとぉー」



黒狼は、頭を右にチョコンと傾けた。



(アハハ……レコード会社の犬っぽい、ルーク……かわいいかも)



「黒狼さん、突然のお願いで悪いんですけど……」

アンジェは少し改めた感じに口調を変え、一気に言葉を続ける。



「昨日助けてもらったばかりで、また助けてくださいって言うのは、本当に申し訳ないと思ってます。……でも、いま教会内にケガ人もたくさんいて、街そのものにも食料が少なくなってるんです。……黒狼さんも、なにか目的があって、この街に来たんですよね」



黒狼は金色の瞳でアンジェ(川野)の空色の瞳をじっと見つめている。



「黒狼さん……ぶっちゃけ……じゃなく、正直言って、私はあなたが人間を襲ったりするなんて、これっぽっちも思っていません。でも、街の人は、あなたのことを恐れているのは、いまこの教会にいる人を見ても、わかりますよね? それで、と言ったら、なんなんですけど……本当にいきなりで恐縮なんですが、黒狼は街の人を襲わないよっていう証明として、森で捕まえた兎とか、少しでいいから分けてもらえませんか。私たちを助けてもらえると嬉しいんですが……」



アンジェ(川野)は両手を胸の前で合掌し、「お願いします」と頭を下げた。



黒狼は、こくりと頭を縦に振ると、スタスタと教会の入り口へ向かい、そのまま走り去っていった。

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