第十一章 「聖女候補者アンジェ」②
「神父様、とりあえず、教会の瓦礫のない部分、壊れていない部分に、困っている人を集めましょう。ケガを見てくれる病院とか、医師の診療所とか、近くにありますか?」
「病院とはなんでしょうか?」
「あっ、また、この流れ……。私の知っている単語は使えないわけね……病気になったときや、ケガを直してくれる、医者の方はどこにいますか?」
「医者……医師、ああ、王室医のことでしょうか。王宮の皇族のみ、王室医がいます。我々のような平民は病気やケガは、聖女様が治療されます」
「じゃあ、その聖女様はどこに?」
「何年も前にお亡くなりになりました。だから我々は新しい聖女様の誕生をお待ちしているのです。あなたも金のタトゥーをお持ちですよね。あなたも聖女候補者だということです。聖女様がいない時代は、病もケガも自然に治るまで待つか、死を待つかです」
「そんな、あんまりじゃないですか……。あ、いま平民って言いましたよね? 貴族はどうなんです?」
「貴族ですか……公爵家ならば治癒魔法師がいるので、多少のケガは治癒魔法師が治します……ただ公爵家が、治癒魔法師をこちらへ寄越して下さるかどうか……」
「……そうなんですね……ないものをねだっても仕方ないってことね……では、神父。できることから、やっていきましょう。まずは、ここに”避難所”を立ち上げましょう。ここが、この災害を乗り越えるための、始まり、”復興”の第一歩です」
神父は、アンジェ(川野)の両手を自分の手で包み込んだ。
「ひなんじょ……ふっこう……始めましょう」
その手は震えていた。神父自身も、恐怖と無力感に押し潰されそうなのだ。
その時だった。
「私でお手伝いできることがあれば……」
二人の前に現れたのは、金色のぼさぼさの長い髪を後ろで結った、長身の男だった。
煤で汚れた外套、だがその青い目は穏やかそうだ。
「え? あなたは、もしかして、王室医ですか?」
「いいえ、治癒魔法師です。パーシモン公爵家で治癒魔法師をしているバルジャンと申します。公爵様が、こちらで手助けしてこい、と仰せでしたので……」
アンジェ(川野)は内心で首をかしげた。
(ちょっと……頼りない? ……待って、バルジャン? 攻略対象にいたっけ? サブキャラ? いたのかな……名前が一回出たとかなら、覚えてないかも……)
だが、今はそんなことを気にしている場合ではなかった。
(医療ボランティアなら、十分すぎるほどありがたいよぉ)
「ありがとうございます、私は川野……じゃなくて、えっと……アンジェです。では、これからどうするか、みんなで考えましょう」
「はい」
バルジャンの返事は、控えめで誠実。
人当たりの良さが滲み出ている。
ゲームの中ではなくても、やはり彼を「どこかで見たことがある」気がした。
が、記憶の正体に辿り着く前に、やることが目白押しだった。




