第九章 「オルドリア正教会-光の刃」①
---クレイモン伯爵家領内 オルドリア・ドミナス派の教会---
川野星流の前世の記憶を取り戻したアンジェの中の川野星流は、教会の入り口へと辿りつき、近くにいた神父に事情を話した。
神父は「それなら教会内で休みなさい」と言ってくれたおかげで、ベンチへ横になった。
ポンチョのお陰で寒さも感じず、アンジェ(川野)は、そのまま眠ってしまった。
朝六時の鐘……が鳴りかけようとしたとき。
鐘の音ではなく、ドォッカカカーン。
轟音が響き渡った。
音の次は衝撃。
教会のベンチで仮眠していたアンジェ(川野)は、爆風で飛んできた瓦礫が足に当たり、呻く。
「――っ!」
アンジェ(川野)は反射的に長椅子の下へ潜り込む。
屋根瓦が砕け、壁の石が落ち……聖堂の屋根が半分、どかどか崩れてくる。
幸い、致命傷は免れた。
だが、足だけではなく、腕にも鈍い痛みが走る。打撲と、切り傷。
昨夜、教会に辿りつき、予想通り、神父様は教会内で休ませてくれた。
ここはオルドリア正教のオルドリア・ドミナス派の教会だった。
(……爆発だよね。どう見ても。過激派のテロ? )
瓦礫の山から這い出したアンジェに、神父が駆け寄る。
「大丈夫ですか! お怪我は!」
「だ、大丈夫……ちょっと打っただけで……」
「それは良かった……」
神父はほっと息をついたあと、アンジェの手に目を留めた。
”金のタトゥー”。
次の瞬間、彼はその手を両手で包み込み、目を閉じた。
「……聖女様のご加護に、恵まれますように」
教会の外から、人々の叫び声が聞こえてくる。
「神父様! 東地区も西地区も……教会が……!」
「大司教様が……亡くなられました……!」
アンジェは、ぞわり、と背筋が冷える。
神父は膝をつき、その場にへなへなと座り込む。
アンジェは呆然と、崩れた聖堂を見回した。
砕けた祭具。
光印が刻まれた五芒星が無残に折れている。
(……乙女ゲームに、こんなシナリオ無いよ……テロとか……)
胸に、嫌な予感が満ちてくる。
祈りながら倒れた神父が呻き声をあげている。
アンジェは「神父様……あちらの神父様を助けないと……」
神父は我に返り、倒れた神父の元へ駆け寄る。
頭から出血している……
(こんなの……おかしい……)
無数の紙がヒラヒラと舞っている。
「”崇高な正義”を求めよ。オルドリア・ルクス派こそ、真のオルドリア正教である」
舞う紙に書かれた文言が朝の陽光を受けていた。
(……爆破しておいて、正義とか、狂ってる……ゲームではオルドリア正教って名前の宗教は一つだけだった……なんで宗派が分かれてるの……そう言えば、アンジェが買い物に行ってたとき、聖女が不在って話だったけど、そもそも、聖女って、この世界では神様なんだから、実物は存在してなかった。なのに、この手の左指には、聖女候補だからって金のタトゥーまで入ってるし……もうわからないことだらけ……マジカルラブムーンに似た世界なわけ、ここ? )




