表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/46

第六章 「黒狼の金の瞳」③

---クレイモン伯爵領内にある市場---



鞭打ちされてから数日経った。

アンジェは久々に市場へ食材を買い求めに来ていた。


この日は月に一度の”聖女祝福の日”。

市場では食材が安価に提供され、安価な食材を求めて、大勢の領民が市場へ押し寄せていた。買い物をする人々は背中のかごに野菜や肉を詰め、呼び声と笑い声が交差している。



「昨日獲れたばかりのイノシシだよ!」

獣肉が吊るされた肉屋の前で、店主がアンジェに声をかける。



「今日は干し肉をたくさん買ったから、また今度にするね」

アンジェは笑って通り過ぎ、野菜を並べる女主人の店に立ち寄った。



「毎度ありがとうね、お嬢さん。もうすぐ日が落ちるから、早く帰りなさいよ」

会計を終えると、おかみさんは声を落とし、アンジェの前に(ひざまず)き呟く。



「……聖女様のご加護に、恵まれますように……」


おかみさんは、よいしょっと立ち上がり、

「お嬢さん、あんたも、金のタトゥーを持っているんだから、夜道を歩くときは、十分に気をつけなきゃね」

と、アンジェを心配そうに見つめた。



アンジェは首を傾げる(かしげる)。

「え? どうして? 」




「今年は聖女様が現れる年だからさ。お嬢さんのような”金のタトゥー”を持った聖女様候補をさらう、悪い連中がいるんだよ」




奇跡の聖女。

五十年に一度、三つの国のうち、どこかの国に生まれ、病を癒し、大地を潤す存在。かつては聖女を巡り、度々戦争が起きたという。




「もし、さらわれた子が聖女にならなかったら、どうなるの……? 」




アンジェの問いに、おかみさんは一瞬、目を伏せた。

「……可哀そうだが売られるだろうよ。……売春宿にね」



アンジェは唇を噛み、「そんな、ひどいことするなんて……」と呟 いた。



おかみさんは手を振り、「気をつけるんだよ」と念押しして、アンジェの背中を見送った。




先程まで明るかった夕焼け空が、だんだんと暗くなり始めた。



ウンデルの森を通り過ぎれば、クレイモン伯爵家だ。

アンジェは足早に歩いていく。

市場から森へと続く帰り道。

木々の影が濃くなり、空気がひやりとしてくる。



その時−−−−。

数人の男が、木陰から、わっと現れた。



「ほう、間近でみると、一段といい女だな。前から目をつけてたんだ。今日、捕まえられるなんて、待ち伏せした甲斐があったというもんだ」



後ろから男がアンジェの背に回り込み、ぎゅっと羽交い締め(はがいじめ)にする。

アンジェは大声で助けを呼び、力一杯に抵抗し、暴れた。



「ヒヒヒ……”聖女祝福の日”に聖女候補を捕まえて、俺たちだけで祝福できるなんて、たまらねぇぜ……しかも、こいつは高く売れそうじゃねえか、」




別の男が口笛をピューッと吹く。

どこからか、幌付きの荷馬車が姿を現す。



だが――

森の奥から、突然飛び出た、黒い影が男に覆いかぶさった。



「うわぁぁぁ」



大きな黒狼が吠えると、荷馬車の馬が暴れだした。



光る金色の瞳。

白い牙を剥き、ウウッと唸りながら、男たちへ次々と襲いかかる黒狼。



「助けてくれー」と、口々に悲鳴をあげながら、男たちは、アンジェを放り出して、荷馬車へ飛び去り、逃げていった。



へたり込んだアンジェ。

目の前に、ぶわっと黒狼が現れ、身体が硬直した。



黒狼の金色の瞳は、じっとアンジェの瞳を捉えたままだ。



「祈りなさい……」 母の声が脳裏へ、響く。



アンジェは眼を閉じ、震える声で、ひたすら祈った。

「……愛する女性と、出会えますように……愛する女性と、出会えますように……」



黒狼は、ふいと視線を外すと、スタスタと森の奥へ消えた。



アンジェは、しばらくして、おそるおそる眼を開ける。

もう黒狼はいない。



(あの黒狼……前肢に金の輪があった……呪いをかけられている王子様? )



怖かった……

身体がブルブルと震え、どっと涙が出てきた。




(売春宿に売られでもしたら……もう、ガイ兄さまに会えなくなってしまう……)




アンジェは涙を手で拭うと、カゴを背負いなおし、全速力で屋敷へと走っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ