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第五章 「伯爵夫人の心の傷と占い師」②

同い年の愛人と、同じ屋敷内で暮らし、同じ食卓で食事をする。

母の苦悩と嫉妬は表には出なかったが、娘たちは敏感に察知していた。異母弟など愛せるはずはない。汚れた子ども……なのだから。



その子どもは、今、ダニエル・ロンメル公爵として生きている。

愛人が来てから、母は心労で食事を摂れなくなり、マリーネが嫁ぐ前、流行り病にかかって亡くなった。



当時、姉のアルテも妹のマリーネも、怒りの矛先は父へと向かわず、愛人へと向かった。本来は、父へ向けられるはずなのに。



貴族社会は男尊女卑。

常に男が優位に立つ。

男を責めることよりも、男を奪った「女」が憎しみの対象となった。

マリーネも、ずっとそう思い、またそう思うことで、自分自身の心を守ってきた。



王妃となった姉アルテは、ほどなく後継者となるフォール王子を産んだ。国王ハウゼンの喜びと愛情は、いつまでも姉アルテに注がれると思っていたが、それは一時のこと。



幸福は、姉アルテの元から小鳥のように飛び去った。



ハウゼン国王には、姉のアルテが王妃として迎える前から、すでに三人の愛人がいた。フォール王子が生まれてすぐ、側室が男子を産んだ。フォール王子の弟にあたる。



しかし、その後、側室から生まれた幼い王子と王女は、次々に亡くなっていき、フォール王子だけが生き残った。そうしてフォール王子は生まれてからずっとハウゼン国王のただ一人の後継者だった。




妹のマリーネは王妃アルテに打ち明けられたことがある。

「側室が妊娠するたび、私の心が削られる」、と。




マリーネは言った。

「姉上、お母様のように、命までも削らないでください」



今にして思えば、王妃アルテは、強い意志を持つ女性だった。



側室の妊娠がわかると、王妃アルテは、彼女らの専属侍女を味方につけ、側室たちの食事に堕胎薬が混ぜさせた。皇室の血統が自分の息子だけのものにするために。



王妃アルテの……そして王室の闇だった。

ハウゼン国王も薄々は気づいているに違いなかったが、誰も王妃を責めることもなく、幼い王子と王女が亡くなると病死として扱われた。



当然、そんな王妃アルテが恨みを買わぬはずがない。フォール王子が10歳の誕生日を迎える直前に、王妃アルテは誰かに毒を盛られて亡くなった。



闇は、いつも忍び寄る−−−−。



王妃アルテが亡くなると、ハウゼン国王は側室たちをすべて家臣へ下げ渡した。そして後妻の王妃を王宮へ迎えなかった。



その決断が姉アルテの存命中であれば、彼女もどんなにか心穏やかに過ごすことができただろう。マリーネ伯爵夫人は、今もそう思える。



あの頃、一日も早く家を出たかったマリーネは、16歳の年、自分より爵位の低い伯爵家に嫁ぐ決意を固めた。ロンメル公爵家は公爵とはいえ、領地が農業生産により構成されていて財力は、男爵クラス。それに比べ、金鉱山を保有しているクレイモン伯爵家は財力の点で非常に優れた家柄だった。




16歳のマリーネは思った。29歳のハウゼン国王でさえ、3人の側室がいたぐらい。それならば33歳で財力もあるダンテス・クレイモン伯爵に愛人がいない訳はない、と。マリーネの想像通り、屋敷には13歳の小娘の愛人がいて、愛人そっくりな男子の息子が、伯爵の子どもとして屋敷内で暮らしていた。



マリーネ伯爵夫人自身も、王妃アルテと同じ現実に直面した。しかし嫁いできた16歳の少女に、ひとまわりも離れている夫の伯爵を責めることはできず、心の声に眼をつむり我慢を強いた。



自分も若いのに、あどけなさが残る3つ年下の愛人。夫の両親は目に入れても痛くないように、愛人の子どもを可愛がる。亡き母と同じ苦悩と嫉妬を、娘の私も受け継いでいる……。



愛人と愛人の子どもとの同居……マリーネは愛人と、その子どもが死んでくれたら、どんなにいいのだろうと、日々、祈り続けた。



姉アルテのように、毒薬をもって殺すことなど、到底出来なかったからだ。



ある日、愛人の子どもが風邪をこじらせて死んだとき、マリーネは飛び上がるほど喜びあふれる感情で満ちた。あの時、街の宿屋にいた、よく当たる占い師の男から、「寝ている子どもの胸に、この黒いバラを置くと、子どもは天に召される」と言われたとおり、実行してみると、数日後に愛人の子どもが死んだ。



マリーネ・クレイモン伯爵夫人は再び、宿屋にいた占い師に会いに行くと、すでに旅立った後だった。あの時、黒いバラをもう一輪買い、愛人の胸に置いていたら、愛人も始末できたかもしれない。



けれど、一輪のバラが3枚の金貨という法外な値段であったことや、その当時、悪質な風邪も流行っていたから、あの占い師の占いが本当かどうか定かではない、とも感じていた。



愛人の子が亡くなり、自分に双子の娘が授かったとき、マリーネ・クレイモン伯爵夫人は自分自身の心に誓った。私の娘にだけは、同じ思いはさせない、と。



双子の娘たちは、良質で幸せな運命を等しく分け与えられるはずだと思った。愛娘のジュリエッタとジェリエッテ。同じ顔、同じ血、彼女たちは同じ未来を歩んでいく。



だが、現実は違った。夫ダンテス・クレイモンによって、マリーネ・クレイモン伯爵夫人の思いは絶たれた。また愛人が男子を出産したのだ。



そして今度は夫の野望で長女が、手の届かない場所へと奪われた。



双子の姉のジュリエッタ。魔法手術により、偽りの皇女として、皇室の血を引き継ぐ未来を拘束された。



双子の妹のジュリエッテは伯爵家に残り、領地経営を担い、婿として、愛人の子であるガイを迎える。憎い愛人の子が娘婿……。



男たちは、いつだって、女の心も身体も傷つける。当たり前のように女を踏みにじって生きていく。

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