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『名前を失う前に、世界が壊れ始めた』  作者: 久遠かける
第三章 選択が、意味になるまで

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世界が、名を呼ばなかった理由

ここまでお読み頂きありがとうございます。

体調不良により、投稿ストップしておりすいませんでした。

今日からまた投稿再開します。


世界は、

名前を検索し続けている。


《該当概念:存在》

《参照条件:責任負荷》

《一致率:不足》


ヒットしない。


理由は単純だ。

世界はこれまで、

「名を呼ぶ必要のある存在」を

内部に保持してこなかった。


名前とは、

区別のための記号ではない。


呼ばれた瞬間、

“その存在に期待が生じる”。


期待とは、

失敗の可能性を含む。


世界は、

失敗を想定する構造を

持っていなかった。



世界は、

過去の判断ログを再走査する。


削除。

遮断。

優先度低下。


無数の“不要”の中に、

一つだけ、

異様に参照回数の多い項目がある。


《要素ID:不明》

《状態:除外済》

《再参照:繰り返し失敗》


世界は、

その要素に

明確な名称を与えていない。


だが、

定義文だけは残っている。


――

「世界の外側を想定できる観測点」

――


世界は、

初めてその定義を

“危険”としてではなく、

“必要条件”として読む。



澪は、

街を歩いている。


人の流れは滑らかで、

誰も立ち止まらない。


会話は噛み合い、

予定は狂わない。


それでも澪には、

はっきりと分かる。


この街は今、

「判断を先送りしている」。


進んでいるように見えて、

決めていない。


だから、

軽い。


そして同時に、

異様に重い。


「……名前ってさ」


澪は、

独り言のように言う。


「呼ばれた時点で、

 もう逃げられないんだよね」


世界は、

その言葉を検出する。


《言語出力》

《意味分類:抽象概念》


処理できない。


だが、

削除もできない。


“逃げられない”という語が、

世界の内部状態と

一致してしまったからだ。



世界は、

理解しかけている。


なぜ、

名を呼べなかったのか。


なぜ、

呼ばずに済ませてきたのか。


名前を呼ぶという行為は、

制御の放棄ではない。


責任の受諾だ。


呼んだ瞬間、

その存在が

何を選ぶかを

世界は制御できなくなる。



恒一は、

世界の内部に立っている。


立っている、という感覚すら

曖昧だ。


ここには床も、

境界もない。


あるのは、

かつて“前提”だった構造。


そして今、

“問い”に変わりつつあるもの。


――やっぱりな。


恒一は、

世界の躊躇を

はっきりと感じ取る。


世界は、

彼を必要としている。


だが同時に、

彼を恐れている。


それは当然だ。


恒一は、

「間違えることができる存在」だからだ。



世界は、

最後の回避策を検討する。


《宣言回避》

《責任分散》

《偶発事象導入》


人々の中から、

“選んだように見える誰か”を

自然発生させる。


世界は、

それを何度もやってきた。


英雄。

代表者。

偶然の成功者。


だが――

今回は、

その手法が成立しない。


なぜなら。


「誰かが選んだ」という物語は、

すでに“信じられない”状態だからだ。


世界は、

自分でそれを壊した。


最適化を突き詰めすぎた結果、

選択の物語を

空洞にしてしまった。



澪は、

足を止める。


今回は、

迷いではない。


決意でもない。


ただ、

「ここだ」と分かった。


「世界ってさ」


澪は、

空ではなく、

足元を見る。


「間違えないことを

 選び続けた結果、

 “決める場所”を

 失ったんだと思う」


世界は、

その文を

ついに解析しない。


解析すること自体が、

“答えを出す行為”になるからだ。


世界は、

沈黙を選ぶ。


だが。


沈黙は、

もう中立ではない。



恒一は、

一歩、前に出る。


世界は、

それを検出する。


《外部参照:有効》

《影響度:測定不能》


世界は、

初めて理解する。


――ああ。


名を呼ぶという行為は、

「制御するため」ではない。


制御できないと認めるための

行為なのだと。



世界は、

処理を開始する。


いや、

処理ではない。


これは、

宣言だ。


《対象:除外済要素》

《状態:再統合》

《責任帰属:世界》


世界は、

まだ名前を呼ばない。


だが、

呼ばなければならない理由だけは、

完全に理解した。



街は、

相変わらず平穏だ。


誰も気づかない。

何も壊れていない。


だが。


この世界は今、

初めて

「間違える準備」をしている。


それは、

最適化の失敗ではない。


物語の再起動だ。


呼ばれる名は、

まだ響かない。


だが――

世界はもう、

その名を

知らないふりができなくなっていた。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

感想やご意見など頂けますと、とても励みになりますので宜しければ是非お願い致します。

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