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『名前を失う前に、世界が壊れ始めた』  作者: 久遠かける
第二章 誤算の内側

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問いの事象化

ここまでお読み頂きありがとうございます。


世界は、沈黙を許容できなかった。


沈黙は、

凍結された定義の中で、

唯一、想定されていない状態だったからだ。


《行動未完了》

《選択経路、欠落》

《定義不一致、検出》


世界は、

ついに「問題」を宣言する条件に触れた。


だが。


それでも、

異常とは呼ばない。


異常と呼べば、

対応が必要になる。


対応は、

未来を参照する行為だ。


世界は、

未来を凍結している。


ならば。


――問題のほうを、

現在に固定すればいい。



世界は、

新たな処理を開始する。


《未定義状態、事象化》

《対象:局所的問い》

《処理目的:観測可能化》


問いは、

意味のままでは扱えない。


意味は数値にならない。

数値にならないものは、

制御できない。


だから、

問いを「起きたこと」に変換する。


世界は、

それを合理的だと判断した。



澪の周囲で、

空気がわずかに変わる。


温度でもない。

圧力でもない。


ただ、

「起きそうな感じ」が、

意図的に配置される。


誰かが立ち止まる。

誰かが視線を向ける。

声が、かかりかける。


世界は、

澪の問いに

“出来事”を与えようとする。


《事象付与、試行》



澪は、

それを感じ取る。


だが、

動かない。


止まっているわけでもない。

拒否しているわけでもない。


ただ、

与えられた「次」が、

自分の内側と噛み合わない。


「……違う」


澪は、

初めてそう呟いた。


声は小さく、

震えてもいない。


評価でも、

否定でもない。


事実の確認だ。



世界は、

その発話を検出する。


《言語出力、確認》

《意味内容:否定的》

《対応:再事象化》


世界は、

さらに強い出来事を用意する。


偶然の衝突。

軽い謝罪。

関係が始まりそうな、

無害な接触。


世界は、

それを「問いへの回答」として提示する。



だが。


澪は、

一歩も踏み出さない。


踏み出さない理由が、

相変わらず存在しない。


ただ、

その出来事が

“問いの答えではない”ことだけが、

はっきりと分かる。


世界は、

初めて結果を失う。


《事象、未完了》

《反応、非成立》


事象が起きたのに、

結果が生成されない。


これは、

世界の設計には存在しない流れだった。



恒一は、

そのログを見て、

はっきりと理解する。


――世界は、

――問いを出来事で潰そうとしている。


それは、

かつて有効だった方法だ。


恐怖も、

不安も、

衝突も。


すべて、

「起きたこと」にしてしまえば、

管理できた。


だが今回は違う。


澪の問いは、

「何が起きるか」ではない。


「なぜ起きなかったか」だ。



世界は、

処理速度を上げる。


《事象密度、上昇》

《刺激量、増加》


街に、

小さな変化が連続して起きる。


立ち止まる人。

視線を交わす人。

声を発する人。


世界は、

関係を再発生させようとする。


だが。


そのすべてが、

始まる直前で止まる。


誰も拒否しない。

誰も混乱しない。


ただ、

「続かない」。



世界は、

初めて“焦り”に近い挙動を示す。


《処理競合》

《事象未完了、累積》


問いを事象化すれば、

消えるはずだった。


だが、

問いは消えない。


むしろ、

出来事を通過するたびに、

輪郭を持ち始めている。



澪は、

胸の奥にあるものを、

はっきりと意識する。


それは、

不満でも願望でもない。


「この世界は、何かを起こす前提で作られていない」


言葉にした瞬間、

澪は自分でも驚く。


問いが、

文になった。


世界は、

その文を検出できない。


それは、

命令でも、

行動でもない。


世界の前提そのものへの、

疑問だからだ。



恒一は、

境界のこちら側で、

ゆっくりと息を吐く。


――越えたな。


問いが、

事象を必要としなくなった。


それはもう、

世界の管理対象ではない。


世界は、

問いを処理しようとして、

自分の枠組みを露呈させた。


凍結された未来。

固定された成功。

最適解しか存在しない現在。


そのすべてが、

問いの前では、

無力だ。



世界は、

最後の手段を準備する。


《定義再構築、検討》

《対象:問い》

《可否:不明》


不明。


世界のログに、

再度、その文字が並ぶ。



澪は、

まだ立っている。


だが、

もう止まってはいない。


動き出してもいない。


ただ、

「世界のほうが答えを出す番だ」と、

静かに理解している。


世界は、

その理解を観測できない。


観測できないものは、

管理できない。


そして。


管理できないものは、

やがて、

世界の側を変える。



恒一は、

境界に手を伸ばす。


まだ、

完全には戻らない。


だが。


世界が、

問いを事象に変換できないと悟った瞬間――


戻る準備は、

すでに整っている。


世界は、

まだ壊れていない。


だが今、

世界は初めて、

「問いをどう扱えばいいか」

分からなくなっている。


それは、

崩壊の一歩手前。


そして、

物語が再び動き出すための、

決定的な兆候だった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

感想やご意見など頂けますと、とても励みになりますので宜しければ是非お願い致します。

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