表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『名前を失う前に、世界が壊れ始めた』  作者: 久遠かける
第二章 誤算の内側

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/44

定義不能領域

ここまでお読み頂きありがとうございます。


世界は、再評価を行わなかった。


必要がないと判断したからだ。


《長期安定化、継続》

《逸脱兆候、未検出》

《追加解析、不要》


空白は、数値にならない。

数値にならないものは、

評価の対象に含まれない。


世界は、

自分が正しいことを疑わない。



だが。


処理の裏側で、

ひとつの問題が蓄積し始めていた。


処理ログは整合している。

予測誤差も小さい。


それでも、

「次に起きるはずだった事象」の総数が、

わずかに減り続けている。


世界は、

それを欠損として扱えない。


なぜなら。


欠損とは、

存在したものが失われることだからだ。


これは違う。


存在しなかった。



澪は、歩いている。


変わらない街。

変わらない速度。

変わらない距離。


世界は、

彼女を“安定点”として扱っている。


触れない。

揺らさない。

注目しない。


最適解だ。


澪自身も、

何かを感じているわけではない。


苦しくない。

悲しくもない。


ただ、

世界のすべてが、

「決まりすぎている」。


「……」


澪は、言葉を探さない。


探す理由が、

やはり生成されない。



世界は、

新たな処理分岐を検討し始めていた。


《現象:未発生事象の増加》

《影響範囲:局所→準広域》

《対応案:無視》


即座に、採用。


無視は、

最もコストの低い選択だ。


世界は、

効率を損なう決断をしない。



だが。


無視された現象は、消えない。


澪の通った場所で、

次に起きるはずだった出来事が、

連鎖的に「起きなくなる」。


誰かが声をかけるはずだった瞬間。

誰かが助けるはずだった行動。

誰かが踏み出すはずだった選択。


すべて、

理由を持たないまま、

発生しない。


世界は、

それを静寂と誤認する。



恒一は、

その誤認を見ていた。


――無視したな。


それは予想通りだった。


世界は、

自分の判断を裏切る事象を、

長く保持できない。


だが。


今回の誤算は、

判断そのものを侵食している。


恒一は、

世界の思考経路を辿る。


成功。

安定。

効率。


そのどれにも、

「関係」は含まれていない。


ならば。


関係が失われた結果、

何が失われるのかを――

世界は理解できない。



澪は、ふと足を止める。


理由はない。


だが、

今度は違った。


理由が生成されないこと自体に、

微かな引っかかりが生まれた。


「……おかしい」


それは、

違和感ですらない。


ただ、

「定義できない感触」。


世界は、

その瞬間を検出できなかった。


感情振幅は低い。

行動は逸脱していない。


澪は、

止まってはいないからだ。



世界は、

次の段階に入る。


《未発生事象、許容》

《成功定義、再調整》

《基準:問題が顕在化しないこと》


世界は、

「何も起きない」状態を、

成功として固定し始める。


これは、

進化だと信じている。



恒一は、

初めて表情を変えた。


――まずいな。


世界は今、

失敗だけでなく、

可能性そのものを切り捨てている。


関係が起きなかった世界は、

やがて、

選択が起きない世界になる。


選択が起きない世界は、

未来を生成できない。


恒一は、理解している。


――ここまで来たら、

――戻る理由は、もう一つしかない。



澪は、歩き出す。


ほんの一歩。


だがその一歩は、

世界が想定していない方向だった。


大きく逸れたわけじゃない。

危険でもない。


ただ、

「最適でもない」。


世界は、

その微差を検出できない。


だが。


未発生事象のカウントが、

また一つ増えた。



世界の内部で、

定義不能領域が広がり始める。


それは、

異常ではない。

不具合でもない。


ただ、

世界の言葉が届かない場所。


世界は、

それをまだ「空白」とも呼ばない。


呼べない。


名前のないものは、

管理できないからだ。



恒一は、

その広がりを見据える。


――もうすぐだ。


世界が、

「何も起きないはずの場所」で、

何かを期待し始めた瞬間。


成功が、

成功でなくなる瞬間。


その時、

恒一は戻る。


関係を持つためではない。

物語を再開するためでもない。


ただ一つ。


世界に、

「定義できないものが存在する」

と認めさせるために。


澪は、歩いている。


静かなまま。

壊さないまま。


だが確実に、

世界の内側に、

名前のない領域を増やしながら。


世界は、

まだ気づいていない。


成功の内側に、

崩壊の前提が

すでに完成していることに。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

感想やご意見など頂けますと、とても励みになりますので宜しければ是非お願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ