表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『名前を失う前に、世界が壊れ始めた』  作者: 久遠かける
第二章 誤算の内側

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/44

固定されない誤算

ここまでお読み頂きありがとうございます。


世界は、解析を開始した。


《異常継続、確認》

《上書き不能領域、拡張中》

《物語化プロトコル、失敗履歴参照》


処理は、正確だった。

速度も、十分だった。


それでも。


結論だけが、出ない。


原因は特定できている。

誤算は、澪にある。


だが――

その“なぜ”が、定義できない。



澪は、立ち止まっていた。


どこかに向かう理由はない。

戻る場所も、示されない。


それでも、世界は彼女を排除しない。


できない。


澪は、正常な存在だ。

数値も、行動も、精神状態も。


ただ一つ。


「関係を保持している」


それだけが、説明不能だった。


「……静かだね」


澪は、独り言のように言う。


返事は、ない。


恒一の声は、もう聞こえない。

だが、消失とも違う。


澪の中で、

“そこにいるはずだった空白”が、固定されている。


それは、喪失ではない。


欠落の形をした、保持だった。



世界は、仮説を立てる。


《仮説A:澪の感情強度が閾値超過》

否定。


《仮説B:記憶再構築の不完全性》

否定。


《仮説C:外部干渉》

該当なし。


《仮説D:関係が、個体に依存しない》


――処理、停止。


その文は、内部矛盾を含んでいた。


関係は、必ず主体を持つ。

個体と個体の間に発生する。


それが、世界の前提だ。


だが。


澪の内部に残っているのは、

「恒一という個体」ではない。


一緒にいた、という事実でもない。


“関係があった”という、状態そのもの。


対象が欠けたまま、

状態だけが存在している。


世界は、初めて理解する。


――これは、関係の亡霊ではない。

――関係の最小単位だ。



澪は、歩き出す。


誰にも呼ばれず、

誰にも導かれず。


それでも、迷ってはいない。


「……ねえ」


声に出す。


「聞いてる?」


返事は、ない。


だが。


澪は、確信していた。


――いないのに、消えてない。


それは矛盾だ。

世界にとって、処理不能な形式だ。


澪は、胸に手を当てる。


そこにあるのは、温度でも、鼓動でもない。


「関係が、あった」という事実を、

事実として扱わない選択。


理由も、物語も、役割も拒否したまま、

ただ残している。



世界は、次の判断を下す。


《異常分類、更新》

《対象:澪》

《状態:誤算の保持者》


誤算は、修正できない。

削除もできない。


ならば。


世界は、誤算を

“内部要素”として扱うことをやめる。


《誤算隔離、検討》

《適用範囲:世界定義》


澪の存在が、

世界の境界に近づき始める。


彼女は、壊されていない。

排除も、否定もされていない。


ただ――

世界の「内側」として、扱われなくなっていく。



その瞬間。


世界の外縁で、

微細な揺らぎが発生した。


恒一は、そこにいた。


姿はない。

声もない。


だが、存在はある。


世界の処理から外れた場所。

定義される前の、余白。


澪が保持した“関係”が、

そこに錨のように引っかかっている。


恒一は、理解する。


――世界は、まだ気づいていない。

――誤算は、隔離できない。


なぜなら。


誤算の中心にいるのは、

澪ではない。


関係そのものでもない。


世界が「扱えない」と判断した瞬間に、

その外側で、再構成が始まっている。


恒一は、まだ戻らない。


戻れない。


だが。


戻るための座標が、

初めて、固定された。



澪は、空を見上げる。


理由はない。

衝動でもない。


ただ、分かる。


「……近いね」


何が、とは言わない。


世界は、その発言を

意味として解析できなかった。


だが。


誤算は、確実に動いている。


まだ、終わらない。


世界が誤算の内側に踏み込み、

自分自身の前提を疑い始めるまで。


その中心に、

澪が立っている限り。


そして――

その外側で、恒一は、

“戻るための形”を、静かに取り始めていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

感想やご意見など頂けますと、とても励みになりますので宜しければ是非お願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ