40「鬼と女と」
「花嫁……」
「上級妖の加護を得て、不死身の肉体を得ればいい。それは人魚の肉を食べたに等しい、神聖なもの」
鬼の花嫁。それは鬼の伴侶を得たものの称号だ。上級妖の加護を得たものはあらゆる災厄から身を守る力を手に入れられる、というおとぎ話。
「子持ちの私が、花嫁……」
「そこは別にいいじゃないですか」
子持ちであろうと男であろうと、鬼がただ一人の番を見つけてそれを守りたいと誓えば花嫁になるのだ。
【そうだ、結婚しよう】
そう言えば、喧嘩したとき禁が言っていた気がする。
それは金銭的に養うということだけではなく、鬼の加護を渡してやるという言葉と同義だったのか。
「だが、鬼と番えばほかの伴侶は見つけられぬ。天には無限の未来がある、それを邪魔したくはない…」
ちらりと禁を見れば、歯切れ悪くもごもごとつぶやいていた。
勢いで守ってやると言ったものの、天が独立した女性であると気づかされて迷いがあるようだった。
「……禁さん以上の男前なんて、この先現れへんで」
そんな様子を見て、天の心はじわりと温まる。
初めて会ったときは冷酷で残酷だと思っていた鬼が、今はこんなにも愛おしい。
ああ、彼が好きだ。
そんな単純なことに、天は今更気づいた。
「天……」
「禁さんはええ人や。夜の闇にいた私を救ってくれて、生きる手立てをくれて、はねっ返りの私を見捨てずにいてくれる」
「そんなの、当然だ」
天は禁の胸にそっと頭を寄せる。どくどく、と力強くなる心臓の音が、彼が緊張していることを教えてくれる。
この人とどこまでも生きていきたい。
いつまでも後ろ髪を引かれる昔の男の幻影を捨てて、愛しい我が子と、彼のもとへ身を寄せたい。
「――でも、花嫁はやめておくわ」
だが、だからこそ、天はその誘いを断った。
「こんな状況で花嫁になったら、本心かどうかわからなくなってしまうもんね」
「……そうか。そうだな」
天の言葉に禁の手が震える。
少なからず苦しい思いをさせてしまっているのだろうが、禁は何も言わずに天の言葉にうなずいた。
天が憎く思って禁を拒絶しているのではないと、お互いに理解しあえている。ふたりは言葉の代わりに、熱く互いを見つめあった。
「……で、じゃあどうするんですか?」
「何も解決していませんよ」
しかし天と禁の甘い時間は、犲とイツ禍の冷たい声によって遮られる。
ふたりは呆れ果てた顔で――犲に至っては爪を眺めながら、完全に興味がなさそうに――、天と禁の話の続きを待っていた。
「あれもいや、これもいや、では話は進みませぬ」
「旦那様、天殿、何か策はおありなのですか?」
犲とイツ禍がこの話に飽きてきている。
このふたりはどこか似ている雰囲気があり、雇用主の禁の経営する華屋の動向にもあまり興味がないようだ。いやならやめれば? と言わんばかりの冷たい目線を投げつけられる。
「考えはあるで」
だが、天には考えがあった。
禁と心が一つになった今だからこそ、できることがある。
天は禁の手をぎゅっと握りしめると、熱く彼を見つめた。
「それには禁さんの協力が必要や」
天の藍色の瞳に見つめられると、禁は弱かった。うるうると艶めく瞳をうっとりと見つめながら、「ああ」といちもにもなく禁は頷く。
その言葉を聞いて天はにっこりと微笑んだ。
「で、何をしようというのです?」
犲の冷たい言葉にも、天はめげない。
禁の手をぎゅっと握って、彼に宣言した。
「禁さんと私でご接待――つまり、三人で交わるんや!!」
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