39「華屋会議」
「追い返ししましょう」
「追い返せばいいのでは?」
山王丸を猗と桃に任せ、華屋の面々は集合していた。
だがまじめに議論をしたい天と禁の想いをよそに、イツ禍と犲の反応は冷ややかだった。
「手に負えない客というのはどこにでもおります。そういう方には出て行っていただくしかないかと」
イツ禍は丁寧な言葉遣いで、しかし容赦なく山王丸を切り捨てる。
「言葉が通じぬのなら鬼の力で追い返せばよろしい。だいだらぼっち相手でも、さすがに禁様のほうが強いでしょう」
犲も同意見だった。
正直、天も人間界であれば厄介な客にはお引き取り願っていただろう。
だがここは幽世、場所は華屋。人と妖が交わりを覚える場所で、無下に断ることはしたくない。
「駄目だ、ここは華屋。すべてを受け入れる場所だ」
その思いは、禁も同じでいてくれた。
「禁様、山王丸を追い返すって息巻いて出て行ったではないですか」
「……そう、天が言っていたんだ!」
犲の冷静なツッコミにも負けず、禁は頑張っていた。
思いが同じであることがこんなにうれしいとは、天は心がじわりと温かくなっていくのを感じる。
ふと禁と目が合って、頬が熱を持った。
「体を交えるのが難しいなら、いつものように説教をしてはいかがか? 妖の過去を人から目線で痛快にお切りあそばせ」
「犲ちゃん、ほんま私のこと嫌いやな!」
それが面白くなかったのか、犲はぷいとそっぽを向いて無礼なことをずけずけと申してくる。
天は呆れながらも、犲からの敵意のような感情を知っていたのであまり大ごとには受け止めなかった。
「いままではそうやってお為ごかして来れましたが……山王丸に哀しい過去などありますでしょうか」
「イツ禍さんまで!」
「あったとしても根には持たん。あれは怨霊の類と違って信仰から生まれている神聖な生き物だ。人の世で起きた些事など気にはしない」
「禁さん!」
天の抗議は全員に受け流される。そうか、皆そういう風に思っていたのか。
がっくりと肩を落としていると、犲が「はあ」とわざとらしい溜息をついた。
「体の大きさが問題なのであれば、人にしてしまいましょう」
「なんやそれ、どういうことや」
「呪いで妖を人間にします。相手が強力なだいだらぼっちなので、一時的な効果にしかなりませぬが。一夜明かすのなら十分でしょう」
天は驚いた。天狗は妖ではあるが賢者で、畏敬すべき対象。とはいえまさか人と妖の境界を軽々と超えるほどの力を持っていたとは。
「体の問題はこれで解決、ということで」
「待って」
「待たぬか」
これで決まりだと言わんばかりにその場を去ろうとする犲を、天と禁の声が止める。
お互い驚いたように相手を見つめるが、想いが同じだとわかると無言でうなずきあう。
「体は変えへん」
「うむ。それでは意味がない」
「……意味、とは?」
犲は自分の意見が却下されて、むっとしたようにふたりを睨む。
「違う種が心を交えることに意味があるんに、山王丸が妖であることを否定したくないんや」
だが、天もひるまない。
まっすぐに犲を見つめると、犲は不愉快そうに狼の尾を揺らした。
「では、お好きに――」
「犲、話を投げ出してはいけません。対処法を知るのは賢者たるあなただけですよ」
犲は「なら勝手にしろ」と話を打ち切ろうとしたが、イツ禍に冷たく叱られるとチッと舌打ちをした。
そして禁を指さすと、ぎろりと睨みつけた。
「大旦那様には解決策がございますでしょう」
「ある……いや、ない! あれはしない!」
「何の話や」
話を振られて禁は慌てる。天には何が何だかわからず理由を問うが、禁は口をつぐんで答えようとはしない。
無駄な時間が数秒流れて、犲はイラついた口調を隠しもせず怒り気味で言い放った。
「女、お前が鬼の花嫁になればいいのです」
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