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第6話 無茶振り

 憧れの先輩からの頼み事、無条件で聞くのが後輩としての務めだろうか。

 しかしそれが本当に憧れの先輩か自信が持てなかったら?


 振り込め詐欺とい言うものがある。

 親しい相手のフリをして騙し、相手から金銭を奪おうという詐欺行為だ。もしかしてこれも、先輩のフリをして私に――。


『新入部員たちに毎年やらせている課題で、春の部内公演ってあるでしょ』

「……えっと、申し訳ないんですが、入部初日から演劇の部長に冷たくされて演劇部の年間スケジュールについてはまだ聞いていません」

『そんな部長がいるの? わたしのゆいゆいにそんなことして、許せない』


 こんなあからさまなボケをやる人があの鬼部長の先輩? 動画を見たときに感じた確信がどんどん揺らいでくる。

 たとえば三年後にいる先輩だとしても――並行世界の先輩と言うことはないか? 私にどこか似た八雲結菜がいて、先輩にどこか似た青柳飾華がいる。

 先輩が演劇部で、私がその先輩に憧れて同じ高校の演劇部に入って、それでニュースも偶然一致することはあるけれど、根本的なところは全く別の世界。部分的にどこかが似ているだけ。


 そうでもなければ、私に対してあんな冷たい先輩と私が恋人になるなんてありえない。

 きっと並行世界の先輩は優しいし、向こうの私も私より演劇の才能があるんじゃないだろうか。それで初対面からもっと親しくて、相性も良くて、なにかのきっかけで恋に落ちたんだろう。

 でもこっちの世界の私と先輩は、違う。恋が芽生える気配皆無。枯れた砂漠には、優しさの水一滴もないし、このままでは私の演劇部での未来すら芽が出ないまましおれていくだろう。


「まあ、聞いてはいないけど、そういうのがあるのは想像つきます」


 ようするに新入部員の歓迎と実力確認を合わせて、一年生だけで一つ舞台をやれ――ということだろう。

 人数的に全部を一年生だけ、ということはなく、裏方で先輩も手伝ってくれるかもしれない。それでも一年生だけで舞台を成立させるという、強豪演劇部らしいハードな課題である。


「……それで先輩が後悔していることってなんですか?」


 私がメッセージを送ると、先輩からの既読がすぐに付く。相変わらず画面は開きっぱなしなんだろう。

 三年後、先輩は多分進学していれば大学生のはずだ。働いている可能性もあるけれど、進学校だし先輩は頭もよさそうだから名の知れた大学に通っているんじゃないだろうか。


『後悔しているのは、脚本選びを手伝ったこと』

「え? 先輩が……一年生だけの舞台の脚本を手伝って……それで変な脚本を選んじゃったとか?」

『いえ、本自体は悪くなかったと思う。部内公演のできもよかった』

「じゃあ何を後悔して?」

『わたしが口を出すべきではなかった。そのせいで、本来一年生が受けるべき評価にケチがついた。結菜たちなら、わたしが口を出さなくてもうまくいったのに』


 ふかくにも、先輩らしい後悔だと思った。

 自分のせいで、誰かの足を引っ張ってしまったこと。厳しい鬼部長だけれど、多分一番厳しいのは自分自身に対してた。

 これで後悔したことがただ自分の利益に繋がるようなことだったら、私もちょっと引いて「解釈違いということで……」と別世界の先輩だったと距離を取っていたかもしれない。


「なるほど、それで私はどうしたらいいんですか?」

『あと何日かしたら、一年生に部内公演の準備をするように部長から――つまり、わたしから話があると思う。そのときに、結菜から念押ししてほしい、「先輩方は口を出さず、一年生に任せてほしい」って』


 先輩からの頼みはシンプルだったけれど――。


「無理ですよっ!? えっ、それ本気ですか? 部員が全員揃っているところで? 一年生が急に先輩相手にそんな偉そうなことを?

『結菜ならできる』

「一番ダメですよっ! 期待の新人とかじゃなくて、私落ちこぼれですよ!? 入部拒否されかけてましたけど!?」

『演技をやる上で、度胸は大事だから』

「そういう話じゃなくて……というか、そんなこと言ったら今度こそ演劇部を追放されません!?」


 やっと練習への参加を認められたばかりの私ができることではない。


『追放なんて……さすがにそんなことしないでしょ、わたし結菜のこと大好きだから』

「それは三年後の先輩はそうかもしれませんけど……」

『三年前だって同じ』

「今の先輩は私のこと嫌っていますよ」

『そんなことない』


 またゆるキャラのスタンプを送って先輩はかわいらしく抗議してくるが、私はこれを譲ることはできない。


「じゃあ、私のどこが好きなんですか」

『一言では言えないけど、一番はあきらめないところ』


 あきらめないところ――たしかに、私はあきらめが悪い方だと思う。でもそんなところを好きになるだろうか?

 まだ秘めた演劇の才能を見いだして惚れた――なんて言ってもらえたら、浮ついたこころでそのまま信用したかもしれない。

 ともかく、やっぱり先輩から好かれているとは思えない。嫌われる理由ならいくらでも思い当たるのに。

 こんな状況で、先輩に口出しするようなことはできない。三年後の先輩が後悔していることはわかるけれど、それがこちらでも同じような結果になるともわからないし。

 でもそうだ、せめてもう少し先輩と私が仲良くなれていたら。

 恋人なんてことは言わないけれど、普通に部活動の先輩後輩として親しかったら、意見することだってできかもしれない。

 でも、あと数日で? 無理だ。……普通なら。


「先輩ともう少し親しくなれるアドバイスをもらえませんか?」

『わたしと仲良くなりたいの? わたしとゆいゆいはもうこれ以上ないってくらい愛し合っているけど、でもその気持ちはうれしい。もっと仲良くなりましょう』

「こっちの、鬼部長の方の先輩とです」

『三年後のわたしは?』

「あーその、もちろん両方の先輩と仲良くしたいですけど、今は鬼部長と仲良くしないと……」


 先輩本人から先輩と親しくなる方法を聞く。

 もし先輩が本物なら、これ以上にアドバイスをもらうのに適した相手もいないはずである。


「もしアドバイスで仲良くなれたら、こっちの先輩が台本のことでなにか言わないようにってお願いします」

『……わたしとしても、三年前のわたしと結菜が仲良くなってくれるのはうれしいことだから、わかった。その代わりお願いね。ちゃんと三年前のわたしを黙らせて』

「黙らせるのは無理ですけど……その、自分たちでやりますって言うのははっきり伝えるよう努力します」

『結菜が努力するってことは、絶対にやるってことだから、信じる』


 そんなことを勝手に信じられても重い。三年後の私は――私と先輩との三年間は、それだけ信頼感が生まれるようなものだったんだろうか。


『わたしと仲良くなる方法ね。うん、じゃあ、まずは――』

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