カントリバース
マッチングアプリで知り合ったkという女性と関係を持ち、正式に「セックスフレンド」となってから二週間以上が過ぎた。
kとはその後、二回会って性的関係を持った。単純に一週間に一回会った計算になる。その間ゴールデンウィークがあり学校は休み、非常勤講師の僕は普段より暇が出来たのだが……。
残念なことにkの仕事が忙しく、思うように予定が会わなかった。どうやらkは相当な数のバイトを掛け持ちしていて、朝から夜までバイト漬けらしい。
これでも本人曰く、先月辺りからだいぶ減ったそうだ。一体どんなバイトをしているのか正直気になるが、今の関係でそこまで聞くのは御法度だろう。
基本的にkの都合を優先させていた。彼女の方が忙しそうだし、何より女性の場合は生理があるので本人の体調に合わせるのが得策と考えたからだ。
まぁ男は年中無休で発情期だから、「今日は無理」なんて余程の事がない限り有り得ないだろう。それにkは若くて美人でスタイルも良い素敵な女性、ひと言で言えば「イイ女」だ。こちらに拒否権など無い。
「はぁ、はぁっ、あっ……いいっ! いいわ!」
それにしてもkはセックス好きだ。バイトが忙しいと言っておきながら、ほぼ毎日のように彼女から連絡が来る。セフレというのはドライな関係……普通のセフレはそこまで頻繁に連絡を取り合わないそうだが、彼女は恋人みたいに積極的だ。次に会う場所、つまりラブホテルも全て彼女が探してくる。
今回は四回目の逢瀬、kの希望で月曜の夜に会った。週末は混雑するラブホだが平日、しかも週明けの月曜日は比較的空いている場合が多いらしい。
しかも今夜は休憩でチェックインして「延長」をするという。彼女はこの後も仕事があり、宿泊は叶わなかったが時間に若干余裕がある。僕はkと一回目のセックスを楽しんだ後、部屋のテレビを見ていた。
利用するラブホは毎回違うが、今回は部屋の風呂が豪華なホテルだ。本当はkと一緒に風呂も楽しみたかったが「二回戦」に精力を温存したいのと、彼女自身が豪華な風呂を独りで楽しみたい……との理由で僕はベッドで待機していた。
その間、僕はテレビのクイズ番組を見ていた。別にクイズが好き……という訳ではない。この日は僕が好きなアイドルグループ「カントリバース」のメンバー全員が出演していたからだ。
スキャンダルを起こし解雇となった元リーダー「ゆめのん」こと荒川夢乃は当然出ていない。今は元サブリーダーの「にこる」こと多摩川二子がリーダーだ。
良かった、一時はどうなることかとファンはやきもきしたが、何とか彼女たちの人気は持ち直したようだ。ただ最年少の「かすみん」こと利根香澄と、新リーダー多摩川二子はいつもの調子を取り戻していないように見える。まぁ「にこる」は新リーダーとしてプレッシャーを感じているに違いない。
他のメンバーはいつも通りだ。僕の推し、渡良瀬碧がツンデレな受け答えで司会者を困らせ、それを清楚系キャラ「びーなす」こと相模絵美菜がやんわりとツッコむパターン……これが見たかったんだよなぁ。
そうこうしているうちにkが風呂から出てきた。
「あら、レイトさんはカントリバースがお好きなんですか?」
「あっいえいえ! 僕はクイズ番組が好きなんですよ」
僕は全力で否定してkに噓をついた。流石にこの年でアイドル好きと思われたら引かれるだろう……と考えたからだ。
「クイズが好きなんですか? じゃ、私から一問出していい?」
「えっ……いいけど」
初対面の時はまるで店員と客のような会話だったが、二度三度と会う度に友だちのような会話に変化しつつある。
「このカントリバースって名前、どういう意味かわかる?」
「えっと……関東リバーズ、メンバーが全員関東地方の川の名前だから?」
「ぶっぶー! 実は『後退できない』って意味よ」
本当は答えを知っている……ファンとしての基本知識だ。付け加えるなら当時のプロデューサーは英語が苦手だったので、本来ならcan't retreatと訳すのが正しいだろう。しかもキャントであってカントとは言わない。でもここまで知っていたらファンだと疑われそうだ。そこで僕は一般的に知られている俗説を言い、わざと答えを間違えたのだが……逆にkはよくこの答えを知っていたな?
「ずいぶん詳しいですね」
「あっ、前にネットで調べたのよ!」
わざわざ調べたのか……じゃあkもカンリバ(カントリバースの略称)に興味あるのか? まぁでも、そんな事はどうでもいい。
「……来て」
僕はテレビの電源を切るとkにキスをした。
今、一番大事なのはカンリバではなく……kとの時間だ。




