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セフレ・アイドル  作者: 055ジャッシー
第十章「崩壊」
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身の振り方

 事務所が経営破綻し、活動休止を余儀なくされたカントリバースのメンバー・相模絵美菜こと鮎川桂。事務所の寮に居るとマスコミに追われる……という事で僕の住むアパートに転がり込んできた。

 だがこのアパート、今は亡き前の彼女・渋谷小春さんと過ごした思い出の場所でもある。桂は「(思い出の場所には)指一本触れない」という条件を自ら出して、同居生活をスタートさせた。


 スタートさせた……とは言っても、今はまだ一緒に缶チューハイを飲んでいるだけの状態。しかも現在置かれている状況では楽しい酒席になる筈も無く、どうしても話題は「カンリバの今後」となってしまう。


「他のメンバーはどうするって言ってるの?」

「メンバー全員での移籍を希望してる……ソロで活動している子もいるけど、私たち全員カンリバという枠組みで活動するのが一番だと考えてるからね」

「そうなんだ……」


 まぁファンの立場からしてもそう考えるのが普通だな。このグループはメンバー個人の「推し」も多いが、それらのファンも含めて「箱推し」が圧倒的。つまりグループとしての魅力が彼女たちの売りなのだ。


「一応(元)チーフマネージャーが受け入れ先を探してるけどね、七人全員を受け入れてくれる芸能事務所は……」


 やはり厳しい状況か……。


「あっ! でもチューブルの子たちは受け入れてくれる事務所が現れたよ」

「えっ本当? それは良かったじゃん」

「う、うん……そうなんだけどね」


 カントリバースの妹分・チューブルックのメンバーは僕が合宿所のバイトをした時に知り合った。なので彼女たちの去就も気になっていたが、某大手事務所が受け入れてくれるらしいので安心した……ところが桂は浮かない顔をしている。


「実はね、葵ちゃんが……」


 万水(よろずい)葵……チューブルックの中心的メンバーだが、合宿所のバイトで僕が最も親しくなった子だ。


「葵ちゃんが……どうしたの?」

「カンリバと一緒じゃなきゃ嫌だって……移籍を拒否してるのよ」


 マジか? 確かにあの子は、メンバーの中で誰よりもカンリバをリスペクトしていた。そうなるのは必然的なのかも知れない。


「で、一度は決まりかけたんだけど……葵ちゃんに同調するメンバーと、移籍を希望するメンバーで対立しちゃってるのよね」


 こりゃ大変だ! 安心どころか不安になって来た。合宿所で一度会っただけだが全員良い子だった印象が強い。何とか分裂しない方向で残って欲しいものだ。


「で、肝心の桂はどうするつもりなの?」

「私? 私は……あっ、流行語大賞は忖度かぁ! この漢字って最初読めなかったよねぇ! すんどとか読んじゃったもん」


 僕からの質問に桂は、いきなりテレビの話題を振って言葉を濁した。



 ※※※※※※※



「ふぁ~あ、そろそろ眠くなってきたね。まっくん、明日も仕事あるの?」


 夜も更けて、会話も途切れ途切れになってきた所で桂が眠いと言い出した。カントリバースの他のメンバーはグループでの移籍を希望しているらしいが結局、桂は自分の身の振り方について語る事は無かった。


「あぁ、非常勤(講師)とバイトがあるよ」

「そっか、じゃあ早く寝なよ」


 今までは不安定な仕事ばかりで暇の多かった僕。対照的に分刻みのスケジュールをこなしてきた相模絵美菜こと桂。しかしカンリバが活動休止になった現在、今度は桂の方がニートのような状況だ。実際、桂は持ち込んだ荷物に入っていた部屋着を着ているが、そこにトップアイドルのオーラは感じられなかった。


「パジャマじゃないんだ……」

「本当は両方持って行きたかったんだけどねぇ……まぁ部屋着だったら近所のコンビニとか行けそうだし」

「いや行くなよ!」


 今、()()()()()()()が外に出たら大変な事になるぞ! 僕もとばっちりを受けてこのアパートを退去しなければならない。


「明日はバイトの帰りに買い物して来るから、昼は家にある……と言ってもカップ麵位しか無いけど、それでも食べてて」

「うん、わかった」


 トップアイドルにカップ麺なんか食わすとは最低のもてなしだが……ここに居るのは一般人(セフレ)の桂だし、急に転がり込んで来たのだから仕方が無いだろう。


「洗面台借りるね……あっ心配しないで! 私の分は用意してあるから」


 そう言うと桂は持参した出前サービスのバッグ(偽物)の中から洗面用具と歯磨きセットを取り出した。私の分って……洗面台には渋谷さんの歯ブラシが当時のまま残されているが、まさかそれは使わないだろう。

 歯磨きを済ませた桂がダイニングに戻って来た。どうやらこのアパートへ来る前に事務所の寮でシャワーは済ませてきたらしい。桂が言うには、もし僕に同居を断られたらネットカフェを利用するつもりでいたそうだ。

 いやいや……僕もそこまで鬼じゃないし、そもそも多くのネットカフェにはシャワールームが完備されている筈だ。


「じゃあまっくん、明日はお仕事頑張ってね! おやすみー」

「あぁおやすみ……って、ちょっと待った!」

「え?」


 僕の目の前で桂は、持ってきた寝袋をダイニングの床に広げ出したのだ。だがフローリングに直接寝袋だと熱が床へ逃げて寒くなる。しかもこの寝袋、よく見るとかなり安っぽい素材だ。

 僕は大学時代、アウトドア好きの友人に誘われてキャンプを何度かした事があるが、こんな柔軟性の無い素材を使った寝袋は初めて見た。バラエティー番組のキャンプ体験で使ったと言うが……この寒い時期に使うのは、例え家の中でも一晩過ごすのは厳しいだろう。


「そんな寝袋使って風邪でも引いたら大変だ! 寝室で寝ていいよ」

「えっいいの? 小春さんとの『愛の巣』なのに?」


 ここまで来て「いいの?」も何も無いだろ!? 僕は寝室の扉を開けた。

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