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セフレ・アイドル  作者: 055ジャッシー
第十章「崩壊」
73/83

今日は描けない

 ――これだったのか!


 書店で山積みにされていたゴシップ誌「週刊ルード」、スクープと銘打った表紙には『カントリバース 解散へ!』と大きく書かれていた。


 桂こと相模絵美菜が所属するカントリバース……国民的アイドルと呼ばれ老若男女問わず誰もがその名を知るグループが解散となれば、これは大きな衝撃……もはや事件だ! 確かにこれは、メンバーの恋愛云々などというレベルでは無い!


 それにしても……何で? 僕は迷う事無く週刊ルードを買った。



 ※※※※※※※



 週刊ルードの記者・中川が書いた記事によると……


 カントリバースが解散する理由……それは彼女たちが所属する事務所が、実は経営破綻寸前だという事だった。

 どうやら中川は、かなり前から事務所の経営状況に対して疑問を抱いていたようだ。そこで彼は極秘に「金の流れ」を調べ、彼女たちの事務所における様々な問題点やトラブルを次々に暴き出していたのだ。


 きっかけは元リーダー・荒川夢乃のスキャンダルだ。当時カントリバースをCMキャラクターに採用していた企業数十社から多額の違約金を請求されていたらしいが……これは残されたメンバーの頑張り、そしてスタッフの地道な営業活動で何とか最小限の損害に抑えられたそうだ。ところが……

 その後、事務所スタッフによる使い込みが判明。そのスタッフに収支管理を全て任せていたため、ずさんな管理体制が明るみになるのを恐れた事務所側が内密に対応した。そのためか、ほとんどのお金が回収不能になってしまったらしい。

 さらに……カンリバで得た収入を基に、不動産事業や株に投資したが失敗。コンサートなど主催した興行の収入も思うように伸びず……どうやら前に僕がバイトした五大ドームツアーも、グッズ販売の売り上げとかはイマイチだったらしい。そうか、東京ドームに中川たちが居たのはこれを調べるためだったのか!?


 元々、カントリバースが爆発的人気になった事により急成長を遂げた弱小プロダクション……大手芸能事務所の様なノウハウが一切無く、綱渡り状態のビジネスが続いていたらしい。結局、企業として「駄目なお手本」になってしまったのだ。

 そして最悪なのは、その事実を周囲にひた隠ししていた事! 一部の関係者以外事務所スタッフ、そして所属タレントには一切知らされていない……もちろん我々ファンに対しても!

 今回この事実をスクープした中川は、この事実をカンリバなど所属タレントやスタッフなどの関係者へ早急に知らせ、身の振り方を考えてもらおう……という意図「も」あったらしい。だから僕にあんな事を言ってきたのか。


 当初、この記事は「ゴシップ誌の戯言」と思われていた。ところがすぐにこれが事実だと知らされる事になる。

 事務所の上層部が記事の内容を正式に認めたのだ。そして事務所は経営破綻し事業停止……カントリバースなどの所属タレントは全員、契約解除となった。


 だがこれだけで彼女たちの芸能活動が終了したり、カンリバが解散する事は無いだろう。他の芸能事務所に「移籍」という選択肢があるからだ。

 ところが! これが思った以上に難関であった。元の事務所が彼女たちの移籍に際し、携わるスタッフも全員「チーム・カンリバ」として一緒に移籍(転職?)するという条件を突き出してきたのだ。

 カントリバースは「金のなる木」……他芸能事務所も喉から手が出るほど欲しい人材だが、その分彼女たちに払うギャラも破格だ。その上スタッフまで……となると、そんな条件に食いつく事務所など皆無だろう。

 スタッフの再雇用……事務所の親心(あるいは責任転嫁?)からすればそう考えるのは妥当だが、移籍先の事務所にも当然優秀なスタッフは存在する。七人いるカンリバメンバーを全員受け入れる事すら難しい中小芸能事務所がほとんどのこの業界で、そんな都合の良い話がまかり通る訳など無い。

 それどころか、これを機にカンリバを消滅させて自分の所のアイドルを売り出そうと考えている事務所だって当然のように出て来る。グループとしての彼女たちを受け入れてくれる先など実質存在しないのだ。


 こうして……カントリバースの解散はほぼ確定的となった。



 ※※※※※※※



 カントリバースの解散はまだ宣言されていない……が、実質彼女たちの活動は停止している。そんな中……


 〝ピンポーン〟


 ある日の夜、アパートのインターホンが鳴った。


『こんばんはー、ウーパーイーツでーす!』


 いや嘘だろ……活動停止以降、何度かニャインを送ったが全て既読スルーだった相模絵美菜こと桂がやって来たのだ。


「おい早く入れ」


 僕は玄関ドアを開けると間髪入れず彼女を中に入れた……今はとても危険な状態なのだ。いつもは後輩アイドルグループ「チューブルック」の生配信中にアバターでリモート出演しながらここにやって来る……というアリバイ工作をしていた。

 だが事務所が事業を停止してから所属タレントは活動休止状態。当然チューブルも活動休止を余儀なくされ生配信は中止している。今、僕の目の前にいるのはマスコミがコメントを取りたくて必死に行方を追っているカントリバースのメンバー・相模絵美菜だ……変装していてもアリバイは証明出来ない。

 そんな危険を冒してまで何故ここへ……それと、彼女のメンタルは大丈夫なのだろうか? ところが、


「まっくん、お久しぶりー」

「久しぶりって……大丈夫なのか?」


 桂は何事も無かったかの様にいつも通りのテンションだ。しかも、


「まぁ色々あったけど平気よ……それより! 絵のモデルの話、どうなったの? あと一回やればいいんでしょ?」


 ――おい、今はそれどころじゃないだろ!?


 桂は自分の事じゃなくて僕の絵の心配をしてきたのだ。だが今の彼女はマスコミに追われる身、プライベートで知り合った友人の個人的趣味に付き合っている場合じゃない!


「じゃ、早速始めようか! あーでも部屋寒いなぁ……ちょっと暖かくするね」


 そう言いながら桂は最近全く使っていなかったアトリエのエアコンを勝手に付けると、さっさと服を脱ぎ始めた。だが僕は慌てて彼女を制止した。


「何をする!? せっかくこのスーパーアイドル、カントリバースの相模絵美菜(びーなす)様が降臨されたというのに其方は絵を描かぬというのか?」

「ごめん……今日は描けないよ」

「えっ、何でよーっ!?」


 僕の「描けない」という言葉に桂はムッとした表情を見せた。だが僕は、今の桂を描く事は絶対に出来ない! 何故なら……



「今日の桂……()()()()()()が作れてないじゃないか」



 そう! 平静を装っている桂だったが、その顔は明らかにいつもの彼女とは違っていた。かなり疲弊しており、今すぐにでもメンタルが崩壊しそうな表情が垣間見えていたのだ。


「そっ……そんな事無い……」

「ここでは……無理しなくていいんだぞ」


 全てを見透かされたと感じた桂は、僕の言葉を聞いて肩を震わせ始めた。僕は上半身が下着姿になった彼女の肩にそっと手をやると……


「うっ……ううっ……うわぁああああん!」


 カントリバースの相模絵美菜(びーなす)こと桂は、堰を切った様に号泣した。


「何で? 何で!? 何で私は何も出来ないのよ……くやっ、悔しいよぉ!」


 カンリバが活動休止し、絵のモデルも断られた桂はまるで鬱憤を晴らすかの様に泣き続けた。僕は何も言わず、ただ桂をそっと抱きしめて彼女が泣き止む……泣く事に飽きるまでただひたすら待っていた。


 彼女の傍に居て……中川の言っていた言葉の意味は、そういう事だったのだ。

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