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セフレ・アイドル  作者: 055ジャッシー
第九章「過去」
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セフレじゃない関係

 

『こんばんはー! ウーパーイーツでぇっす!』


 〝ガチャ!〟


「もうそのジョークはいいから……早く入って」

「はーい」


 僕は周囲に人が居ない事を確認してから、配達員をアパートの中に入れた。



 ※※※※※※※



「お疲れ! 今日の配信も大変だったね」

「あの子たち何を考えてるんだか……もうしばらくポテト食べたくないわぁ」

「いや、食べてないでしょアナタは!?」


 深々と被った帽子を取って長い髪を下したのは相模絵美菜こと鮎川桂だ。今夜も出前サービスの配達員に変装して僕の住むアパートにやって来た。

 彼女は後輩アイドルグループ「チューブルック」の生配信にアバターとして参加している。音声はリアルタイムで対応しているが、実際の彼女は自転車を使ってここまでやって来ているのだ。


「疲れない?」

「電動アシストだから平気よ」


 だがいくら変装しているとはいえ、現役アイドルが夜間に自転車に乗って来ている事は気が引ける。しかもここ最近、夜がとても寒くなってきた。桂が体調を崩さない様、僕は部屋を予め暖めてからホットドリンクの準備をしていた。


「これお裾分けね」

「いや、いいよ……フライドポテトでしょ?」

「大丈夫! 私たちの分はハンバーガーもちゃんとあるから」

「チューブルメンバーは?」

「ガチでポテトだけ……」

「酷っ!」

「ま、あの子たちが考えた企画だから……」


 僕は桂が来る前にチューブルックの生配信を見ていた。今夜は「ハンバーガー店のフライドポテト、最強(凶)のソースは何?」とかいう企画で彼女たちは大量のフライドポテト()()を食べ続けていたのだ。

 しかもディップするソースは塩辛やワサビ漬け、カキ氷シロップなど……相変わらず体張っているなぁ。ちなみに、お約束なのか相模絵美菜のアバター(代役)はタバスコで食べていた。


「よく食べていないのにリアクション出来るよね?」

「カンリバ(カントリバース)辞めたら女優になろうかなぁ?」


 僕たちは「お裾分け」のハンバーガーを食べながら談笑していた。


 チューブルックの生配信は評判が良いらしい。カンリバメンバーも毎回アバターで登場していて、僕の推しでもある渡良瀬碧(ぐりんちゃん)が出た時なんか「ぐりん先輩の胸囲を測る」という企画をやり、カンリバで一番胸が大きいと言われるぐりんちゃんのバストを実際に測ったらしい。もちろんアバターなので映像には出ないが、かなり攻めている内容でチャンネル登録も一気に増えたそうだ。


「じゃ、そろそろ始めようか」

「うん」


 食事も終わり、落ち着いた僕等はダイニングからアトリエとして使っている部屋へ移動した。予め暖房を効かせた部屋に入ると桂は僕の元カノ、渋谷小春さんの写真に一礼してから服を脱ぎ始めた。

 そう、桂は僕の未完成の絵……渋谷さんの裸体画を完成させるためのモデルを自ら進んで引き受けてくれたのだ。今は亡き恋人の絵を完成させる……これは本来のモデルである渋谷さんの願いでもあった。だがいつの間にか、その事を知った桂の目標にもなっていた。


 僕たちはチューブルの配信を利用して、この様な形で既に数回会っていた。セフレではなく、絵描きとモデルの関係だ。最初の頃、桂は「食べてからモデルやるとお腹がぽっこりして恥ずかしい」と嫌がっていた。でもここで僕が桂に求めているのはポージング……そして桂の「表情」だ。

 下書きはほぼ終わっている。体型も細かい部分は、出来る限り渋谷さん思い出しながら描いている。これは桂に対する嫌がらせではない。渋谷さんに合わせて描いてくれ……というのは他ならぬ桂の希望だ。

 だが桂がこちらを見つめて微笑む表情、これは渋谷さんとそっくりなのだ。顔は全然違うのに、何故かそう感じてしまう……不思議な現象だ。でも桂のその表情に気が付いた瞬間、僕は絵の続きを描ける気がしてきた。そしてもう一つ、ある「試み」に挑戦し始めたのだ。


「ちょっと休憩しようか」


 ずっと同じポーズを取り続けるモデル……もちろん人間なのでそう長い時間続けられる訳がない。小まめに休憩を取ると


「あっ、ちょっとトイレ貸してね」


 桂は用意しておいたバスローブを着ると部屋から出て行った。その間に僕は「ある試み」を始めた。


「お待たせ―! じゃ、続きをやろっ!」

「うん、よろしく」

「でもさぁーまっくん、ちょっと疑問なんだけど……絵のモデルってそんなに時間掛かるの?」

「う、うん……まぁ掛かるね」

「……ちゃんと描いてる? ちょっと見せてよ」

「駄目だよ! これは完成するまでのお楽しみ」

「えー!? けちー!」


 桂は膨れっ面をした後、再びポーズを取った。



 ※※※※※※※



「お疲れ! 今日も有難う……気をつけて帰ってね」

「うん、まっくんも余り無理しないでね」


 いや、無理してるのは桂の方だ。アイドルの仕事が忙しいのに、こんな危険な真似をしてまで会いに来てくれる……なので何とか彼女の期待に応えてあげたい。


「たぶん、次回で完成すると思うから……またよろしくね」

「ホント? 期待してるわよ! それじゃおやすみー」


 桂は再び変装すると、周囲を気にしながら玄関ドアを開けた。本当ならば玄関の外……いや、駐輪場まで行って見送ってあげたいのだが、彼女の立場上そんな事は不可能だ。

 僕と元カノ・渋谷さんの思い出が詰まったアパート……桂には渋谷さんの代わりにヌードモデルをお願いしているが、ここで彼女とセックスはしていない……セフレなのに。

 でも最近は、桂と肉体関係が無くてもこうして会える事自体が楽しみになって来た。これがモデルとしてなのか友人としてなのか、はたまた推しのアイドルグループのメンバーだからなのかはわからない。ただ、こうして逢う事にリスクを伴う関係……最近はこれが疎ましく感じてしまい、彼女が相模絵美菜というアイドルじゃなかったら……と思う様にまでなってきた。

 アトリエに戻り、画材や道具を片付けた僕はふと渋谷さんの写真を見た。そして彼女に向かって


「渋谷さん……もうすぐ絵が完成するよ」


 と声を掛けた。更に……


「言っとくけど、これは浮気じゃないからね」


 思わず桂を家に入れた事に対する言い訳をしてしまった。


 一段落ついたので何か飲もう……そう思って冷蔵庫を開けるとアルコールの類が何も無い事に気付いた。仕方ない、多少値段が高いが近くのコンビニで買おう。

 夜も更けてスーパーも閉店している時間帯……僕はダウンジャケットを着込みアパートを出た。と、その時!


「こんばんは」


 後ろからいきなり声を掛けられた。どこかで聞いたことのある声だが友人とかでは無い。その声を聞いた瞬間、僕は心臓が止まりそうになる位の衝撃を受けた。


 ――何故……この男が?


「お久しぶりです……鶴見末吉さん」


 僕は恐る恐る振り向くと……間違いない。声を掛けてきたのはゴシップ誌「週刊ルード」の記者・中川だ!


 何故この場所がわかった!? それと……


 何故この男は僕の名前を知っている!?

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