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セフレ・アイドル  作者: 055ジャッシー
第八章「発覚」
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蜂の一刺し

 桂こと相模絵美菜がラブホから朝帰りした……というスキャンダル発覚から一週間ほど経ったある日、とあるネット記事が世間を騒がせた。梅子ことものまねタレントの相模厚着が「あの写真は自分」だとマスコミに名乗りを上げたのだ。


 記事によると、相模厚着はセフレの「彼氏」と共謀……相模絵美菜に成り切って週刊ルードの記者を騙したという。目的は自分のモノマネがどこまで似ているのか試したかったのと、ちょっとした悪戯心によるSNSの話題作りだという。売れないものまねタレントが引き起こした騒動なので、当然世間は「売名行為」と捉えたであろう。


 ――そういう事か! これで全ての辻褄が合った。


 桂に対して「知らぬ存ぜぬ」を貫く様に指示したのは、自分が身代わりになるため……もしここで桂が「お友だちです」などと、少しでも僕との関係を認めるような発言をしたら全ての計画が水の泡となる。

 僕に対しては、記者にセフレだと主張しろと言ってきた。僕は当初、桂のセフレという意味に捉えていたのだが、これが梅子のセフレ……という話に変化した。でもこれで僕が週刊ルードの記者・中川に主張した内容も結果的に辻褄が合う。

 更に梅子は証拠として、ラブホテルの室内で自撮りした写真をSNSにアップしていた。その衣装は桂が着ていた服とほぼ同じ……しかも前日に動物園デートで着ていた服だったので、その日動物園に来ていた人たちが「そういや似た服を着たカップルを見かけた」とSNSで呟き始めたのだ。その時間、相模絵美菜はカントリバースとして仕事中……これで彼女のアリバイは成立した。

 すると、相模絵美菜のスキャンダルを躍起になって糾弾していた人たちは一気にトーンダウン……いつの間にか話題にする事さえ無くなってしまった。


 ――酒匂梅子の考えた「作戦」、それは完璧だった。だが……


 昭和の時代に「蜂の一刺し」という流行語があった。これはある政治家の汚職事件で逮捕・起訴された秘書官の妻が、夫に不利な証言をした事に由来する。今で言う「会心の一撃」という奴だが、この言葉にはもう一つの意味も孕んでいる。

 ここで言う「蜂」とはミツバチの事。ミツバチの針は一度刺すと抜けなくなってしまい、強引に抜くと体がちぎれて死んでしまうのだ。つまりこの「一刺し」という言葉は……


 ……梅子の(社会的な)死を意味する。


 思った通り……今まで相模絵美菜をバッシングしていた怒りの矛先が、今度は梅子に向けられた。

 特にカンリ人(カントリバースのファン)には「メンバーにマイナスイメージを与えた()()()」と認定され、梅子のSNSは瞬く間に炎上、そして閉鎖……アパートも特定され、連日嫌がらせの張り紙や鍵を接着剤で埋められたり……挙句の果てには放火騒ぎまで起きた。本人たちは正義だと信じて疑わないだろうが、やっている事は犯罪以外の何物でもない。梅子は夜逃げするかの様にこっそりとアパートを退去したと、ワイドショーのリポーターがアパートの前で言っていた。

 マスコミは連日この話題を放送、当然芸能界に彼女の居場所は無くなった。普段働いていたものまねショーパブは解雇、芸能事務所(実際はショーパブのオーナーが兼任している)とのマネジメント契約も解除された……


 こうして家と仕事……酒匂梅子は生活の糧を全て失った。



 ※※※※※※※



 それから一ヶ月程の月日が流れた。世間はトップアイドルのスキャンダルの事などすっかり忘れ、ワイドショーや週刊誌は次の醜聞を探し回っていた。

 殺害予告を出したりアパートに嫌がらせしていた連中が捕まったという話は聞いていない。一応、被害届は出されている様だが……まぁ捕まったとしても話題にすらならない。そもそも罪の意識が無いので、今頃パフェとか食っているだろう。

 カントリバースも普段通りに活動していた。もちろん相模絵美菜も……スキャンダルの事は彼女にとってマイナスとはならず、むしろ悪意あるものまねタレントによって名誉が傷つけられた「被害者」として同情を集めていた。だが現実は……


『まっくん……梅ちゃんと連絡取れた?』

「いや、僕の所にも全く……」


 僕は自宅で桂とニャインのビデオ通話をしていた。沈静化したとはいえ、まだまだマスコミの連中は桂こと相模絵美菜をマークしているだろう。梅子の手助けも無くなった今……僕たちは不用意に会う事が出来なくなってしまったのだ。


『どうしよう……私のせいで、梅ちゃんが……梅ちゃんが』


 テレビなどでは平静を装っている桂だったが、実は毎日梅子の消息を気にしている。スマホだと小さ過ぎてわかり難いが、どう見ても暗く悲しんでいる表情だ。


『まっくんもごめんね、私のせいで』

「自分を責めないで! 僕の事は気にしなくていいよ」


 僕も全く影響が無かった訳ではない。やはり桂と同じく梅子の消息が気になっていた。時々仕事が上の空になってしまい、それが原因で僕はバイトを二か所もクビになってしまった。まぁ梅子の苦しみに比べたら何てことは無いのだが。

 今も桂と通話中、梅子の消息がわからないかパソコンで検索している。だがSNSは閉鎖、事務所のサイトからも名前が消えた状態で梅子を探すのは困難を極めている。唯一の手掛かりは、皮肉にも彼女をバッシングしているSNSから情報を集めるしかないのだが……。


 ――えっ!?


 僕はある書込みから梅子に関する情報を発見した。それはアンチのSNSに『あのバカ女、ついにここまで落ちて人生終了ww』という書き込みに添えられたURL。クリックしてみると、とあるネットニュースの記事が表示された。そこには……


『あのお騒がせものまねタレント、今度はAVデビュー』


 と書いてあった。そこに映っていた画像は……間違いない、梅子だ!


「ちょっと桂! これ見て」


 僕はすぐにその記事が書かれた画面を桂に見せた。


『えぇっ、梅ちゃん!?』


 梅子はカンリバの衣装(偽物)を着て相模絵美菜に成り切っていた。つまり芸能人の「そっくりさん」としてAVデビューする事になったらしい。芸名もものまねタレント時代の「相模厚着」ではなく「美・茄子」、つまり相模絵美菜の愛称「びーなす」をもじった様だが……と、その時!


 ――えっ?


 僕と桂が通話している所に参加してきた者が……梅子だ!


『二人とも、おっ久しぶりー!』

『えぇっ、梅ちゃん!?』

「びっくりしたー、久しぶり」


 梅子は相変わらず元気そうだった。世間からバッシングされ姿を消したとは思えない程だ。だが梅子の元気そうな姿を見た桂は、


『う……うわぁああああん! 梅ちゃんごめん……グスッ、ごめんねーっ!』


 小さなスマホ画面でもわかる位、大粒の涙を流し号泣した。


『気にしないでよ桂ちゃん、元々私が考えた事だから』

『だって……だって……』


 この一ヶ月間、二人には想像を超えるプレッシャーが圧し掛かっていたに違いない。桂はずっと号泣し、その姿を見た梅子は貰い泣きしていた。


『私の方こそごめんね! また桂ちゃん利用しちゃったけど』

『いいよぉ~……グスッ、何なら公認だってしてあげる』


 いやAVを公認したら駄目だろ。


「でもいいのか梅子? AVなんて……」

『大丈夫よ! 元々風俗嬢だったし、人前に裸を晒すのは慣れているわ……あっそうだ! DVD完成したらまっくんにもあげるから、夜のオカズに使ってね!』

「いや遠慮する」

『えっ、何で!?』

「背景が見えるから素直に喜べない」

『別に気にしなくてもいいのにぃ~! それより……今はまだ会う事が出来ないけどさ! またいつか……この三人で()()()()()よ!』

『……うん!』

「あぁ……」


 桂の表情は笑顔に変わっていた。


『そん時はまた3Pしようね!』

『うん!』


 この状況でよくその発想が出来るな!? でも……梅子はとてもたくましい女性だ。僕はこの人と巡り会えて良かったと思っている……おそらく桂も同じ事を考えているだろう。

 どうやら二人もそれぞれの自宅に居るようだ。アパートを追われた梅子だったが、現在はAV制作会社の社長の家に居候しているらしい。僕たちはそれぞれ冷蔵庫から缶ビールや缶チューハイを取り出すと、再びスマホの前に集まった。そして、


『カンパーイ!』


 久々の再会と、梅子の『再始動(リスタート)』を祝福した。

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