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セフレ・アイドル  作者: 055ジャッシー
第八章「発覚」
60/72

ごめんね

 

『撮られた』


 先にラブホを出た桂から送られてきたこのメッセージ……もはや説明する必要は無いだろう。


「えっ、何でこんな所に……」


 油断していた! 生活圏とは違う場所……流石にこんな場所へマスコミは来ないと全員が思っていた。しかも何時もの「影武者作戦」は使わず、三人揃ってラブホに入ってしまった……完全に油断していた! さっきまで上機嫌だった梅子の顔が青ざめ、そして爪を噛みながら震え出した。


 僕も同じだ……自由恋愛が認められている現代、セフレという関係は決して違法ではない。ましてや未婚者同士、しかも特定の恋人が居ない者同士なら倫理的にも何ら問題ではない。

 だが相手が悪かった! 桂は芸能人……所謂「私人」ではなく、社会的な影響力を持った「準公人」という立場だ。本来なら保護されるべきプライバシー権が保護されない、そして保護されない事が世間から認められてしまっているのだ。


 しかも桂こと相模絵美菜が所属する「カントリバース」は名実ともに日本一のアイドルグループだが……今年に入って元リーダー・荒川夢乃のスキャンダルに始まり、最年少メンバー・利根香澄の卒業そして引退とマイナスイメージの出来事が続いた。ここに来て相模絵美菜のスキャンダルが発覚したら……いくら盤石な人気を誇る彼女たちでも壊滅的なダメージを受けるであろう。何としてでもそれだけは阻止しなければ! でも……


「ど……どうすれば良いんだ?」


 僕みたいな一私人がどうこう出来る問題では無い。だが心の声が漏れてしまった僕に、梅子は真剣な表情でこう言った。


「まっくん、とりあえず落ち着いて!」

「えっ、そんなこと言われても……」


 僕と桂はセフレの関係……確かにバイトの紹介をして貰った恩はあるが、そこまで深い関係では無い。正直「彼女を助けたい」という感情も、もしかしたら自分の正体を公に晒されれたく無い……という保身の考えが、少なからず存在するのかも知れない。

 だが梅子は違う! 彼女はものまねタレントとして全く売れていなかった時代、批判覚悟で始めた相模絵美菜(びーなす)のモノマネをいち早くびーなす本人が認め、テレビやラジオで紹介までしてくれたのだ。なので梅子は相模絵美菜の事を「恩人」そして「女神」とまで言ってリスペクトしている。


 ただ……前に東京ドームでマスコミらしき怪しい二人組から相模絵美菜との関係を聞かれた時、梅子が裏切ったのかと一瞬だけ疑った事がある。そんな事は無いと信じたいが、梅子の動向も注視しておこう。


 その時、


 〝ポポポポポポンッ♪〟


 梅子のスマホに着信音が……間違いなく桂からだ。


「もしもし! 今どこ……あ、うん、タクシー乗ったんだ」


 どうやらタクシーに乗り、落ち着いたので音声通話してきたのだろう。だが何を話しているのか……とても気になる。


「あっ、ちょっと待って!」


 心配している僕に気を遣ったのか、梅子はスピーカー通話に切り替えた。


「もしもし! で、撮ったのはどんな連中?」

『暗くてよくわからなかったけど……二人いたわ!』

「取材は受けた?」

『来たけど無視した……ひと言もしゃべってない! 結構しつこくついて来た』

「て事は、声は聞かれてないね?」

『うん』

「マスクは?」

『してた……(伊達)メガネも』


 電話越しに聞こえる桂の声は弱々しかった……心なしか泣いている様にも聞こえる。彼女も事の重大さを当然わかっているのだろう。


「そう……わかった! じゃあそいつ等には相模絵美菜だと認めてないんだね?」

『……うん』

「あと、そいつ等まだここに居そう?」

『居ると思う……私は無視した所で、事務所に掲載許可の連絡いくと思うけど……たぶん、まっくんには意地でもコメントを取ろうとするから居座ってる筈』


 ――何だって!? マスコミから取材!?


 どうしよう!? 恐らく相手はプロだ! そんな人たちを相手に下手な事はしゃべれない! ノーコメントを貫ける自信も無い……こりゃ責任重大だ! しかも当然、写真に撮られるよな? うわぁ、せっかく教員採用試験の二次試験受けたばかりなのに……合格しても採用は絶望的だ! でも……


『まっくん……居る?』


 桂が僕に話し掛けてきた。


「居るけど……」

『ごめんね、まっくん……私が油断したせいで、一般人のアナタにまで迷惑かけてしまって……グスッ』


 間違いない、桂は責任を感じて泣いている。本当は桂の方が僕の何十倍、いや何百倍もリスクが高い筈。油断したのは僕たち全員……桂だけが謝る必要は無い。


「だ、大丈夫だよ僕の事は……」

『ごめんね……ごめん』


 桂はひたすら謝り続けた。ところが、


「おいおい、それ以上しゃべるとタクシーの運ちゃんに聞かれるぞ!」


 ――いや梅子(オマエ)が一番しゃべらせていたけどな!?


「桂ちゃん、心配しないでロケ行って! 後は()()()()何とかするから」

『あ、有難う……でも、何とかって……?』

「私に考えがある……いい作戦思い付いた! あっそうそう桂ちゃん! 今後はどこに対しても『知らない』『私じゃない』の一本槍で通して! 所謂『お友だち』も絶対に言ったら駄目だよ」

『えっ、そんな事言って……』

「大丈夫、私たちに任せて! じゃあ仕事頑張ってねー! あ、涙拭けよー、バイバーイ」


 そう言って梅子は電話を切った。えっおいおい「私たち」って事は僕も何かするんだよな!? まぁ、桂のためなら協力は惜しまないけど……。

 どうやら梅子が桂に聞いていた事は、全て梅子の考えた「作戦」に関係があるらしい。電話を切った梅子は僕の目を見ると自信たっぷりにこう告げた。


「まっくん……悪いけど、ひとりでここを出て!」

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