裸体
シャワーを浴びている間、僕の脳内では様々な思いが渦巻いていた。
kがあまりにも美人過ぎる。あんな美人ならセフレじゃなくても、男なんて取っ替え引っ替えできるだろう。何で僕なんかとセフレになろうとしているのだ?
やっぱり罠なのか? 今こうしている間に美人局の相方とか呼んでないか? でもお金はkが全て出すと言っている。じゃあ宗教やマルチの勧誘か? だったらラブホで会わなくてもいいよな。
それにkは年齢をごまかさないよう運転免許証を持っていたり、性病に罹っていないことを証明するなど誠実な対応を取っている。
――何なんだ!? この女性は。
僕は最終的に宇宙人説や実は男? 説なんて滑稽な事を考えてしまったが、今さら悩んでも仕方がない。覚悟を決めた僕はバスローブを着てkの元へ向かった。
「あっ出ましたか……じゃあ私もシャワー浴びてきますので、先にベッドで待っていてください」
弁当を食べ終えたkはそう言うとスッと立ち上がり、まるで自分の家にでも居るかのように堂々とした態度でシャワールームへ歩き出した。
※※※※※※※
シャワールームから音が聞こえてきた。kがシャワーを浴びている音だ。
――緊張する!!
僕には彼女がいた……もちろん童貞ではない。だが今日初対面の人と……しかも素面、アルコールの勢いという責任転嫁は出来ない……こんな状況で緊張しない訳がない! 更にシャワーの音が緊張感を否応なしに高めてしまう!
だが緊張したせいで勃起しなかった……なんて事態に陥ったらこのセフレ関係は成立しなくなってしまう。僕は部屋のテレビでアダルトビデオを見て、気分を高揚させて不安を解消しようと考えた。
再びテレビの電源を入れた。画面にはワイドショーの続きが映し出された。
――まだこの話題やってるのかよ!
先ほどと同じくカントリバースのリーダー・荒川夢乃のスキャンダルが報じられていた。ま、この人はいわゆる枕営業をやって挙句の果てに自殺未遂までしたんだから、そりゃ大きく報道されるよな。
こんなの見てたら気分悪い。早くチャンネルを変えよう……とリモコンを持った瞬間、カントリバースのメンバーによる記者会見の画面に切り替わった。
――あ、いよいよ公の場に出てきたのか。
スキャンダル発覚以降、残りのメンバーはアイドル活動を続けていたが、記者会見などの取材には一切応じていなかった。どうやら今朝になってマスコミの前に現れたようだ。まぁ今まで事務所から色々と口止めされていたのだろう。
――それにしても、相変わらず「ぐりん」は可愛いなぁ!
実は……僕はカントリバースのファンだ。中でも「ぐりん」こと渡良瀬碧が「推し」だ。メンバーの中ではツンデレキャラ、普段からツンツンした発言をしているが全然イラっとさせない所が気に入っている。
だがこれは謝罪会見。画面に映る彼女たちは皆、深刻な表情で記者会見に臨んでいる。こんな彼女たちは見たくない! 僕はすぐにチャンネルを変えた。
※※※※※※※
「お待たせ」
僕がアダルトビデオを見始めてしばらくすると、バスタオルを体に巻付けたkがシャワールームから出てきた。
いよいよ初めて会った女性と……セックスするのか?
正直まだ別れた彼女のことが忘れられない僕は、この期に及んでも背徳感を全て拭い去ることが出来なかった。
「あーっ、AV見てたんですね!?」
――えっ、あっしまった! テレビ付けっぱなしだった!
「あっ、すすすみません!」
「いいんですよ! そういうムードになってもらった方がいいですからね!」
「え、あぁ……」
「でーもっ! 私がレイトさんの彼女だったら許さないかなぁーっ!?」
そうか、この人は僕の彼女じゃない! kもまた、僕のことを彼氏だと思っていない! 僕たちは赤の他人、ただセックスをするだけの理由でここに居るんだ。
「じゃ……始めましょうか」
そう言うとkは巻付けたバスタオルを自分で外した。バスタオルは床にはらりと落ち、彼女の裸体が露わになった。
――!?
薄暗い照明の中、僕は再び言葉を失った。胸が特に大きい訳ではない。だがkは水着モデルのようなとても良いプロポーションをしている。
僕もバスローブを脱ぎ、彼女を抱きしめた。とても温かい……自分が生きていると実感した。
僕はkと唇を重ね……そして身体を重ねた。




