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セフレ・アイドル  作者: 055ジャッシー
第七章「合宿」
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気を付けてね

 

「先生はボランティアでやってるから無理させちゃダメ! はぃもう終わり!」

「えーっ!?」


 相模絵美菜(びーなす)の助け舟(?)で、僕はチューブルックメンバーの家庭教師から離脱する事が出来た。



 ※※※※※※※



 大変な目に遭った。


 一応、共学の高校で教えているので女子生徒の扱いには慣れているつもりだったのだが……流石に女子だけの集団は予想以上にキツい。

 そういや大学のサッカー部で一緒だった不逢若彦という友人が私立の女子高で教師をやっているが、以前会った時「女子高は地獄だ」と言っていたな。僕も私立の教員を狙っているが、女子中高は選択肢から外しておこう。


 部屋を出た僕とカンリバメンバーの三人は合宿所の廊下を歩いていた。僕と相模絵美菜が横並びで、後ろを他のメンバー二人がついて歩いていた。

 僕が桂こと相模絵美菜の親戚という「設定」は、初日にカンリバメンバーと会った時、既に彼女たちも知っていた様子だった。ここで余所余所しくしていたら逆に不自然、僕は相模絵美菜に話し掛けた。


「何しに来たの?」


 確かにあの時は騒然としていたが、外に声が漏れる程の大騒ぎでは無かった。騒動を聞いて止めに来た訳では無いだろう。だとしたら修学旅行の見回りみたいな奴か? それなら事務所スタッフが行けば良い話で、先輩グループであるカンリバがわざわざ行く必要は無い。


「ハーレム王が鼻の下伸ばしてないかチェックしに来たの」


 何だよハーレム王って!? 相手は中学生……子どもだぞ! 女性という意識は微塵も無かったわ。


「あのさぁ、まっくん……」

「え?」

「今回の(家庭教師の)話、葵ちゃんが言い出したんでしょ?」

「う、うん……大井さん(チューブルマネージャー)の話だとそうらしいけど……実は絵を描いていた時にあの子がやって来て」


 と僕が言うと、相模絵美菜こと桂は小さく溜息をつきこう言った。


「葵ちゃんはねぇ、根が真面目で努力家でとっても良い子なの! カンリバ昇格の最有力候補なんだけどね……ちょっと問題が」

「問題?」

「あぁゴメン、何でもない! とにかく、たぶんあの子は明日以降もまっくんの所へ行くと思うけど……気を付けてね」


 えっ……何に気を付けるんだよ? この時、僕はまだ桂の言っている事が理解出来なかった。


「あっ、私トイレに寄ってくから皆は先に行ってて! まっくんおやすみー!」


 桂は僕に謎の忠告をすると、そそくさとトイレに向かった。残されたのは僕、そして桂と一緒にやって来たカンリバメンバーの鬼怒川櫻(ちぇりー)那珂常盤(なかひー)……。

 うわぁ、桂(相模絵美菜)以外のカンリバメンバーと二人、いや三人っきりじゃないか! ファンとしてこんな嬉しい状況はないが、気軽に話し掛けていいものか悩む。すると彼女たちの方から


「矢本さん……ですよね? 相模絵美菜のご親戚の方……?」

「あ、はぃ」


 ……噓ですけど。


「びーなすに親戚が居たなんて初耳だよね」

「うん、少なくとも私は聞いた事無い」


 ヤバい! こりゃ色々と根掘り葉掘り聞かれそうな流れだ! 頼む、細かい追及は勘弁してくれ!


「だってあの子、家族の事すら話した事無いのに……」

「えっ?」

「あぁ、いえ……実は私たちってお互い体のホクロの位置まで知ってるほど仲が良いんですけど」

「なかひー、流石にホクロは盛り過ぎ! ま、姉妹みたいな関係ですよ」

「でもびーなす……あっ相模から家族の話って、私たち今まで一度も聞いた事無いんですよ! 本人も話したがらないからこっちも聞き辛いし……」


「そ、そうなんですか」

「だから親戚が居るって聞いてびっくりしちゃた!」

「あっすみません、この話は相模には内緒で……」

「あっ……はい」

「それじゃあ私たちはこれで……お疲れ様でした」

「おやすみなさーい」

「ああっ、おっお疲れ様でした」


 僕はカンリバの二人と別れて自分の部屋に戻った。家族の話か……


 ……言える訳無いだろ!


 桂が中学生の時、担任教師から性暴力を受けたせいで母親は心労が祟りそれが原因で亡くなり、父親は担任(そいつ)を車で轢き殺そうとして刑務所送り……これから未来へ向かって共に歩む仲間に、とてもじゃないが言える内容では無い。


 性暴力で負った傷は思った以上に……深い。



 ※※※※※※※



 それからの合宿期間中……桂の予想通り、万水(よろずい)葵はレッスンの合間を縫って毎日の様に僕が絵を描いている場所へひとりでやって来た。

 最初に会った時、葵ちゃんは「絵を見るのが好き」と言っていた。事実、こうして毎日やって来ては僕の絵が描いてあるスケッチブックを楽しそうに何度も見ている。だが……


 合宿最終日、せっかくなので僕は今回、簡易的だが絵の具も用意してきたので水彩スケッチも描いてみる事にした。


「わぁーすごーい、きれい!」


 今までは鉛筆で描いていたモノトーンの世界……飽きるほど描いていたこの構図に色を付けた事で、葵ちゃんは再び感動していた。


「良かったらこれあげるよ」

「本当ですか!? うれしー! 家に帰ったら額縁に入れて部屋に飾ります!」


 いやいや、そこまでする程の作品じゃ……素人のラフスケッチだし。本当にこの子は絵が好きなんだな……僕はそう思っていたのだが、


「じゃ、今まで見に来てくれて有難う! 帰ったらアイドル活動も頑張ってね」


 最後の一枚を葵ちゃんに渡し、水彩道具の後片付けをしていると……


「あっ、あの! 先生!」

「はい、何ですか?」

「先生は……二十五歳だとお聞きしたんですが」

「えぇ、そうですけど」

「あ、あの! 十歳年下って……恋愛対象に入りますか?」


 えっ? 万水葵は僕が全く予想していなかった事を口にした。



「私……先生の事が好きなんです!」



 この瞬間、僕は全てを悟った。桂が言っていた「気を付けてね」とは……


 ……この事だったのだ!

※不逢若彦……作者の作品「女子高の問題教師と40人の変態たち」の主人公。

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