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セフレ・アイドル  作者: 055ジャッシー
第七章「合宿」
54/56

自制心

 

「先生ー! この問題わからないので教えてくださーい」

「先生! ここってどうやって解いたらいいですか?」


 合宿所のバイトで本来なら自由時間なのだが、僕はカントリバースの姉妹グループ・チューブルックメンバーの「夏休みの宿題」を手伝う羽目になった。彼女たちは全員中学生……僕は高校の美術教師なので専門外だが、まぁ義務教育の勉強なら何とか教えられるだろうと渋々引き受けてしまった。

 僕を案内してくれたチューブルックマネージャーの大井さんは打ち合わせのため退出、部屋には僕とチューブルメンバーだけだ。

 最初の内は彼女たちも真剣に勉強していた。だがこの年齢の子どもたちが、何時までもモチベーションを維持出来る訳がない。次第に彼女たちの質問は僕のプライベートに関するものに変わっていった。


「先生はぁー、彼女さんとかいるんですか?」

「どういう人がタイプですかー?」


 内容は恋愛ジャンルに特化……好きだよなぁ、この年頃の女の子ってこういう恋バナ系が……しかもグイグイ来る。アイドル活動をしているので、恋愛禁止などの制約がある彼女たち……業界関係の大人たちやファンの前でこの手の話は出来ないだろうから、きっとフラストレーションが溜まっているに違いない。


「じゃあじゃあ! チューブル(この)の中で誰とキスしたいですかぁ!?」

「きゃーっ! 葵ちゃん攻め過ぎー!」


 特に積極的なのが昼間声を掛けてきた万水(よろずい)葵……チューブルでは最年長、十五歳の中学三年生だ。他の子の質問が抽象的なのに対し、葵ちゃんの質問は具体的過ぎるものが多い。


「はーい、そろそろ勉強してくださーい! 用が無かったら帰りますよー」

「えーヤダ! もっとお話ししましょうよぉー!」


 チューブルメンバーからモテモテの僕だったが、カンリバと違ってアイドルという目では見れない……ただの女子中学生だ。僕が教えている学校でも、こんな感じの女子生徒は何人かいる。

 その中でも葵ちゃんはマセているというか早熟な印象を受ける。恋愛禁止のアイドルなのに大丈夫か? そんな心配をしていたのだがこの後、僕は彼女の意外な一面を知る事となる。


「ちょっと、夕食後のお菓子は禁止でしょ!?」


 突然、葵ちゃんが他のメンバーを注意した。メンバーの何人かがチョコレート菓子やポテトスナックを持ち出して食べていたのだ。どうやら彼女たちのルールで、この時間に菓子を食べるのは禁止されているらしい。


「いいじゃん、大井さん(マネージャー)居ないし」

「昼間はOKなのに夜はダメっておかしくない? おかしだけに」

「ウケる!」


 だが他のメンバーは葵ちゃんの注意に従わず、罪の意識も無い。


「それはさぁ、私もよくわかんないけど夜食べたら太るっつーか……」

「えー私、夜食べても太らない人じゃん」

「葵ってさぁ、センターだからって優等生ぶってない?」

「そうだそうだー! リーダーしたかったらちゃんと説明しろ―」


 メンバー同士の空気が悪くなってきた。このままじゃマズいな。ちなみにチューブルは全員が研修生で同じ立場……という設定なのでリーダーは居ない。


「そ、それは……」


 注意した葵ちゃんが孤立した形に……助け舟を出したいが、僕もこのルールに対して納得いく説明は出来ない。葵ちゃんが困っていると、


「あ、それだったら私たちが説明するわよー」


 と言って部屋に入って来たのは……カンリバメンバーの鬼怒川櫻(ちぇりー)那珂常盤(なかひー)、そして相模絵美菜(びーなす)(鮎川桂)の三人だ! 三人の顔を見たチューブルメンバー、特にお菓子を食べていた子は顔面蒼白になってしまった。


「お前等良かったなー、来たのがアタシたちで!」

「にこる(リーダーの多摩川二子)が見たら謹慎(処分)かもねー」


 さっきまで悪態をついていたメンバーは全員、水戸黄門の印籠を見せつけられた悪人の様に正座して下を向き黙り込んでしまった。そういや三人並んだ姿はまるで黄門様と助さん格さんみたいだな。すると真ん中に居た黄門様、もとい相模絵美菜がチューブルメンバーへ諭す様に語りかけた。


「これはね、自制心を鍛えて自己管理を徹底するためよ」

「じ、自制……自己管……?」

「そう! 今のアナタたちはね、アイドルとはいっても全然売れてない……まだまだ未熟な存在なの!」

「そっ、それは……はぃ」

「この世の中にはね、様々な誘惑があるの! 例えば飲酒や喫煙、恋愛とか……そしてアナタたちみたいな未熟なアイドルはね、そういう誘惑に負けると簡単に消されちゃうの! 事務所と契約解除……つまり仕事を失う事になるのよ」

「……」

「まだアナタたちは自覚無いと思うけど、仕事を失う事は生活が出来なくなるって事……お菓子どころかご飯も食べられなくなっちゃうよ! もちろん二度とアイドルなんて出来ないし……だから今の内に自制心を鍛えて誘惑から身を守る! それには自己管理を徹底するっていう理由なのよ! わかった?」

「はいっ!」

「じゃあお菓子(それ)は仕舞いなさい! 今日の所は内緒にしてあげるから」

「あ、有難うございまーす!」


 完全に体育会系の先輩と後輩、相模絵美菜の言葉に全員が従った。それにしても自制心とか自己管理って……どの口が言ってるんだよ!?


 セフレのアイドル……僕に言わせれば説得力が無い。

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