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セフレ・アイドル  作者: 055ジャッシー
第七章「合宿」
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騙された!

 ――騙された! そして考えが甘かった!


 夏休み中の非常勤講師が陥る失業問題を解決すべく、桂(相模絵美菜)の紹介で僕はカントリバースの「合宿」にスタッフのバイトとして同行する事になった。

 住み込みのバイト、具体的にはメンバーの身の回りの世話……何て役得! バイトでお金が入る、期間中は住み込みなので食事等の生活費は一切掛からない、そして何より! 憧れのカンリバメンバーとお近付きになれるという一石二……いや三鳥のバイトだ! 生きてて良かった!


 僕はあらぬ妄想をしてしまった。桂は確かにバイトの内容を「私たちの身の回りの世話」と言った。私たち……それはつまりカンリバメンバーの事で、その中には僕の推し・ぐりんちゃんこと渡良瀬碧も当然含まれているだろう。

 レッスンで疲れたぐりんちゃんにマッサージをしたり、衣装の洗濯をしてやったり……お風呂へ着替えを持って行ったら脱衣所でバッタリ!? 現地に向かう車の中で、僕はラブコメ小説の様な薄っぺらい妄想をしていたのだが……。


「スタッフの皆さん、こっちの草取りが終わったら裏庭の方もお願いしまーす」

「はーい」


 待っていたのは合宿所周りの草取り(手作業)や施設の掃除、食材の買い出しや食器の後片付け(メンバーを含めたスタッフ全員分)等々……ちなみにメンバーの洗濯は、自己管理を徹底するため各自が行う……というルールらしい。

 ぐりんちゃんを含むカンリバメンバーとは、近付くどころかその姿を見る事すらなく……これは間違いない! 桂に騙された!


 合宿所はカンリバの事務所が所有している。近くには彼女たちが契約するレコード会社のスタジオもあるのだが、避暑地にもなっているこの場所は夏の僅かな期間しか利用しないのだそう。

 なのでそれ以外のシーズンは全くと言っていい程管理されておらず、雑草の量が半端無いのだ。避暑地と言えども炎天下での草取りは体に堪える。しかもカンリバメンバーが集中出来なくなる……との理由で草刈り機などの機械が使えず、手作業による草取り作業になってしまったのだ。



 ※※※※※※※



「ぶぇー、やっと終わったぁ!」

「お疲れさまー!」


 午前中の仕事が終わり、僕と同じアルバイトスタッフは合宿所に与えられた専用の部屋へと向かった。もちろんカンリバメンバーとは別棟だ。

 このバイトの良い点、それは午前中の仕事が終わった後の休憩が長い所。次は夕食の支度なので結構時間が空く。その間は自由時間となり、基本的には集合時間まで何をしても良いのだが……


 ここは軽井沢などとは違いガチの避暑地……つまり周りに遊んだり買い物が楽しめる場所など無い。なのでほとんどのバイトスタッフは部屋に籠りゲームをしたり本を読んだりして日中を過ごす。中には遠く離れた市街地へ足を運ぶ強者もいるみたいだ。だが僕は……


「あっ()()()()、どこかへお出掛けですか」

「えぇ、ちょっとこの辺りの散歩に……」


 桂から「ファンクラブ会員はバイトNG」と言われた僕はバイト中「矢本 誠」という偽名を使っている……矢本は母の旧姓だ。部屋の前で合宿所の管理人さんに声を掛けられた僕は外出目的を告げると、


「そうだ管理人さん、この辺りに()()()()()()()ってあります?」


 管理人さんに付近の情報を尋ねた。


「あぁ、それでしたら……」


 僕は管理人さんから教えてもらった場所に向かおうとした。その時、廊下の先からこちらに向かって来る集団が……カンリバメンバーだ! どうやら午前中のレッスンを終えたらしい。


「お疲れ様です!」


 僕はレッスンを終えたメンバーに頭を下げて挨拶した。すると、


「あっ、まっくんもお疲れー」


 気軽に声を掛けてくるメンバーが……もちろん相模絵美菜(びーなす)だ。そう、「(まこと)」という偽名はびーなす、つまり桂が「まっくん」と呼びやすい様に考えた名前だ。一応ここでの僕は、びーなすの「親戚」という設定になっている。


「何? まっくんお出掛け?」

「うん、ちょっと散歩に」

「えっ暑いじゃん! 熱中症になっちゃうよ」

「帽子と水筒持っているからたぶん大丈夫」


 すると他のメンバーが、


「あっもしかしてびーなすの親戚の方?」

「つーか(東京)ドームで拍手してくれた方ですよね?」

「あの時は有難うございました、(引退した)かすみんも感謝してましたよ」


 次々と僕に話し掛けてきた! 憧れのカンリバメンバーと話せる又とないチャンスだったのだが、桂から「メンバーとの会話はNG」と釘を刺されているので躊躇してしまった。と、そこへ……


「まっくん出掛けるんでしょー行ってらっしゃーい気を付けてねー」


 棒読みで話す桂に急かされる形で追い出されてしまった。くっそー、もっとメンバーとしゃべりたかったのに!

 僕は合宿所を抜け出すと、管理人さんに教えてもらった「ある場所」へ向かって歩き出した……大きめのバッグを肩に掛けて。

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