謎だらけの女性
僕がラブホテルの部屋に入って十五分くらい経ったであろうか、解錠されたドアからひとりの女性が入ってきた。僕は慌ててテレビの電源を切ると、その女性は僕の目を見て挨拶した。
「おはっ、こんにちは! 初めまして……kです」
――今おはようって言おうとした? もう昼過ぎなんだけど。
僕の予想を良い意味で裏切ってくれた。二十歳と言っていたが、正直なところ生徒の保護者もしくはキャバ嬢のような見た目の女性が来ると覚悟していた。
ところが現れたのは……ナチュラルメイクというのだろうか? ほぼすっぴんに近い顔、派手なネイルもせず、服装も地味でとてもこのような場所にいるタイプに見えない。しかも……
――美人だ。
メイクや衣装で地味な雰囲気を醸し出しているが、この女性は間違いなく美人の類に入る。なぜこんな女性がセフレを? その年と見た目なら普通に彼氏だって出来そうなのに……僕は一瞬言葉を失いかけたがふと我に返った。
「あっ、あぁ初めまして! レイトです」
僕はマッチングアプリで「レイト」というニックネームを使っている。本名が末吉、その末の字から「late」と名乗った。本当なら「end」が正しいだろうが、遠藤という友人がいるので使うのに気が引けたのだ。
ひとつ気がかりなことがある。kは二十歳ということだが、見た目はそれよりも若い。童顔なのか、僕が教えている生徒と同じくらいにさえ見える。
こうなってくると別の問題が! もしこのkが年齢を偽っていて、実は十八歳未満だったら? そしてそんな女性と関係を持ったら……僕は色々な意味で終了してしまう。それだけは避けたい、僕は失礼を承知でkに聞いてみた。
「あのっ、いきなりですみませんが……kさんはそのっ、本当に二十歳……」
と言いかけたところでkは小さく溜息をつくと、持っているバッグの中から何かを取り出し僕に見せた……運転免許証だ。生年月日と顔写真……二十歳であることは確認取れた。ただ免許証の顔写真は今の見た目に輪をかけて地味に見える。
名前と住所は指で隠していたが、名前の最後の文字がチラッと見えた。「圭」という字だ……そうか、それでニックネームが「k」だったのか。
※※※※※※※
「ところでレイトさん、例の物は?」
「あ、あぁ……これですか?」
僕はスマホを取り出すと「ある画面」をkに見せた。それは性病検査の診断結果だ。彼女も僕に同じ画面を見せた。実はkの希望で、性病に罹っていないか検査して証明書を確認する……というのが会うための条件だったのだ。
普通のセフレはこんな事をしないのかも知れない。だがkによると、前に知人で梅毒に罹った人がいたらしく、彼女は怖くなってそれ以来、関係を持つ相手には必ず要求しているらしい。意外と用心深い女性だが、その方が僕も安心する。お互い問題無いことを確認すると今度は、
「あのっ、レイトさんはお昼を召し上がりましたか?」
「えっあぁ、ここへ来る前にファミレスで済ませてきました」
と答えるとkは少し小悪魔的な笑みを浮かべ
「あら? もうヤル気満々じゃないですかぁ」
――いや、普通にお昼過ぎてたから食べたんだよ。
「すみません! 実は私、前のお仕事が延びちゃってお昼食べてないんです。失礼ですけど今お弁当食べてもいいですか?」
「えっ、あぁ……いいですけど」
――駄目とは言えないだろ!
「もしよろしかったら、先にシャワーを浴びてきてもらえませんか? 私、その間に食べてますので」
そういうとkはバッグから弁当を取り出した。
――えっ?
それはどこで売っているのかわからない高級感のある弁当だった……てっきりコンビニ弁当だと思っていたが。
「いただきまーす」
それをkはごく普通に食べ始めた。まるで普段から食べ慣れているかのように。まぁ食事に集中しているなら財布を抜き取られることもあるまい。僕はシャワーを浴びることにした。
それにしても……kは謎だらけの女性だ。でも「セックスだけの関係」なのだから余計な詮索はしない方がいいだろう。




