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セフレ・アイドル  作者: 055ジャッシー
第六章「友情」
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私たちは……親友なんです!

 かすみんこと利根香澄が卒業の挨拶で「荒川夢乃(ゆめのん)」の名前を出した!


 スキャンダルを起こしカンリバの名前を汚した荒川夢乃、ファンの間で彼女の名前はNGワードの筈だが……大丈夫か? 僕は嫌な予感しかしなかったが、それはすぐに的中した。


「おおぃ、君!」


 僕はスーツ姿の男性に声を掛けられた。バイト先の社員さんだ。


「はい?」

「確か君、バイト上がってたよね? 悪いんだけど、もうちょっと付き合ってくれないか?」


 社員さんは切羽詰まった様子……はぁはぁと息も上がっている。だが僕は所定の八時間が過ぎ、もうこれ以上働く事は出来ない。


「あの、でも……」

「頼む! 緊急事態だ! 割増(賃金)払うから」


 割増賃金、つまり残業代が出るという言葉で僕はつい引き受けてしまった。僕はその社員さん……今回のライブを運営する会社の人と一緒に走り出したが、何の緊急事態なのかまだ聞いていなかった。


「何があったんですか?」

「あぁ、実はさっきの利根の言葉にアリーナの客が咬み付いてね、ライブが中断しているんだ」


 そういえば! かすみんの失言(?)以降、会場内から曲もMC(メンバー)の声も何も聞こえなくなっていた。これは明らかに異変だ!



 ※※※※※※※



 僕と社員さんはアリーナに入った。よく見ると他にもスタッフTシャツを着た人が大勢居る。会場内は騒然とし、観客の中には泣き出している女の子も居た。


「何だよ離せ! お前等、その名前を出すんじゃねぇよ!」


 制服姿の警備員から羽交い絞めにされている男が一人……どうやらこの男がかすみんに咬み付いた首謀者に違いない。ステージに乱入しようとする位の行為でも無い限り、警備員に力尽くで止められたりしないだろう。


「そうだそうだー!」

「カンリバは夢乃(アイツ)の肩を持つのかー!?」


 その男に煽動されたのか、他の観客も煽り立ててきた。さっきまでライブを楽しんでたクセによくそんな事が言えるな……だがその一方で、


「そこまで言う事は無いだろ!」

「元々メンバーなんだから名前出す位いいでしょ!」

「バカ野郎! ライブ中止になるぞ!」


 彼等を非難する声も聞こえてきた。その中には……あれ? 神田君!?


「みっみんな……さっ最後まで……ライブ楽しみましょうよ!」


 か細い声で騒動を収束させようと頑張っていた。


「皆さん、落ち着いて! 席に座ってくださーい!」


 僕たちは興奮状態の観客を落ち着かせ、一度席に座るよう促した。一番怖いのは彼らが暴徒化する事、それだけは防がなければならない。ライブを中止する事も出来るが、観客が冷静にならなければ逆効果になる事も有り得る。

 警備員に羽交い絞めにされている男はかなりの興奮状態だ。今この男に何を言っても無駄だな。きっと彼は正義感が強すぎる余り自分が不義をしている事に気付いてないか、アイドルは全員処女で枕営業なんか絶対しないと妄信して周りが見えない童貞君のどちらかだろう。


 ステージでは、カンリバのメンバーが運営スタッフに促され退出させられそうになっている。特にかすみんはかなりショックを受けている様子で、同じメンバーの夷隅美咲(みさっきー)が寄り添っていた。せっかくの卒業公演に水を差されてしまったな。

 唯一マイクを持ったリーダーの多摩川二子(にこる)が、観客に向かって謝罪した。まぁ謝罪する理由など無いのだが、ここは無難な対応だろう。


「かすみんの発言は撤回します! 申し訳ありませんでした……()()


 今度はにこるの「ただ」という言葉にあの男が反応した。


「ただって何だよ! 夢乃(アイツ)を擁護する気か!? だとしたらお前等も枕営業やってると考えていいんだな!?」


 何でその理屈に……もう道理が通らない状況だが、この言葉ににこるが反応してしまった!


「何でそうなるんですか! 私はただ、夢乃がカンリバに貢献した……」

「まぁそうだよなアンタは! ()()()だから信じたいんだろ!?」

「なっ……!」


 観客の野次に、にこるは言葉を失った。前々からファンの間では、にこるとゆめのんは所謂「百合カップル」だという噂がまことしやかに囁かれていた。

 根も葉もない噂、しかも本人が知らないであろうファンの裏情報を聞かされたにこるは何も言えなくなった。と、そこへ……


「あ、あー! このマイク(電源)入ってる?」


 突然、マイクを握ったメンバーが! 桂……もとい、相模絵美菜(びーなす)だ!


「皆さん! 本日はこのような事態になってしまいまして、大変申し訳ありませんでした! メンバーの一人として謝罪させていただきます」


 そう言うとびーなすは深々と頭を下げた。


「あっ、ちなみに枕営業って何ですか? 私、純粋無垢なアイドルなのでよくわかりませんが……少なくとも枕を売り歩いたことは無いですよ」


 いきなりボケやがった! だがここで多くの観客が笑い出し、流れが変わった。


「まぁ冗談はさて置き、皆さんにお話ししたい事があります」


 と思ったら急に真顔になって……何を話すつもりだ?


「私たちカントリバースは今から四年前に結成()()()()()()()


 ……させられました?


「当時、何も知らされない状態で事務所の一室に集められた私たちは、お互いが初対面のままいきなり『お前たちは今日からカントリバースとしてデビューする』と言われました」


 そうか、全員初対面とは知らなかったな。


「最初の頃はお互い他人行儀……ギクシャクした関係で、私も正直『こいつマジでヤだなぁ』って思ったメンバーも居ました」


 ここで会場からドッと笑いが……実はこれ、有名なエピソードだ! まぁそれが誰なのかここでは言うまい。


「でも! 毎日レッスンを重ね、誰一人振り向いてさえくれないインストアライブで全国のレコード店を回って……いつしか私たちは同じ釜の飯を食う戦友みたいな関係になっていたんです! そう!



 私たちは全員……『親友』なんです!



 それは後から入って来たかすみんも一緒です! 自分たちのデビュー当時の苦労を知っているからこそ、かすみんを温かく迎え入れ……もちろん今ではかすみんも親友です! そして……」


 ついにびーなすも……あの名前を出した。


「それは……ゆめのんも一緒です! 確かに彼女は過ちを犯しました! なので私は親友として、彼女に代わって皆さんにお詫びします! 皆さん、本当にすみませんでした!」


 びーなすが深々と頭を下げると、他のメンバーも続いて頭を下げた。今度は会場からブーイングなど無い……ここで更にびーなすは決定打を付け加えた。


「皆さんにお聞きします……皆さんのお友だち、親友がもし何らかの過ちを犯したら皆さんは、すぐに縁を切りますか? 絶交しますか? 相談に乗ったり助け舟を出しませんか? そもそも、過ちを犯した人を簡単に見捨てられる間柄って……



 ……友だちと呼べるのでしょうか?」



 この正論ともいえるびーなすの言葉に会場はシーンと静まり返った。だがこのままの状態ではライブではなくお通夜になってしまう! ところが……

 所々から〝パチッ〟〝パチッ〟と手を叩く音が……そうか、びーなすの言葉に拍手をしたいけど躊躇している様だ。ならば!


 〝パチパチパチパチ……〟


 僕は全力で拍手をした。すると近くに居た神田君も一緒に拍手してくれた。更に周りの観客も一人、また一人と拍手をして……気が付くと会場全体が大きな拍手に包まれた。


「いいぞー! びーなす!」

「カンリバ最高ー!」


 さっきまで批判していた連中も、手のひらを返したように声援を送っていた。全く……世間って日和見で勝手だよな。

 会場は今日一番の盛り上がり……だと思う……僕は見ていないから。僕は神田君と目が合うと、お互いにサムズアップして健闘(?)を称え合った。


「それじゃ、アンコール曲いくよー!」


 びーなすの掛け声でアンコール曲が流れた。それは皮肉にも(?)荒川夢乃が作曲した曲だった。

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