出る杭は打たれる
その後、スタッフが懸命に捜索したが謎の二人組は見つからなかった。
あの二人は何者だったんだ? それと、何の目的でここに……僕は訳がわからなかったが、運営スタッフの人から「ある情報」を教えてもらった。
「カンリバ専門の記者?」
「あぁ……実は前々から噂になっているんだが、カンリバメンバーの素行を専門に探ってる雑誌記者がいるらしいよ! 何でも荒川のスキャンダルも奴等が素っ破抜いたそうだ」
「そ、そうなんですか?」
「キミから聞いた特徴がまさにそいつ等と一致してたよ! まぁ(カンリバの)事務所も存在を知ってて警戒しているみたいだけどねぇ……」
運営スタッフの人は溜息交じりに説明してくれた。なるほど、これは「出る杭は打たれる」って奴だな。
カントリバースは国民的アイドルグループと称され、彼女たちの一挙手一投足が世間に多くの影響を与えてしまう。人気絶頂の彼女たちは称賛され羨望の眼差しを集める一方、妬みや疎みなどから一方的に恨み辛みを買う事もある。
そういう人たちは何かボロを出さないか必死で粗探しをする。そんな彼らの代わりに粗探しをしてくれるのが写真週刊誌などの所謂「ゴシップ誌」なのだろう。
やっぱりいるんだ……そういう連中。だとしたら、マジでヤバいな……
……僕と桂との関係!
あの男、僕にわざわざ「カンリバのメンバーと個人的に親しいか?」などと聞いてきやがった! ただのアルバイトスタッフに聞いてくるような質問じゃない!
何だろう……ハッタリ咬まされた? それとも誰にでもそういう「探り」を入れて来る? 良くわからない。
桂と会う時はほぼ完璧だ。そういう連中にマークされないよう、会う場所はランダムでゲリラ的……しかもアリバイ工作のため「酒匂梅子」という協力者も居る。
じゃあ桂とやり取りしている「ニャイン」が流出? いやいや、お互いセキュリティはしっかり管理してるし……あ、そういえば桂とのニャイングループに最近梅子が加わったが……
まさか……梅子が裏切った?
いかんいかん、そういう事を考えだしたら人間不信に陥ってしまう! とりあえず今は目の前にある「バイト」に集中しよう。
※※※※※※※
「みんなー! 今日は本っ当にありがとー!」
会場からライブの音声だけは聞こえてくる。どうやらライブが終わった様だ……な訳が無い! この後アンコールが起こり、カンリバは追加の曲を歌う流れだ。そもそもこのライブで卒業する利根香澄の挨拶がまだ無い!
「お疲れ様です。交代の時間ですよ」
少し体格の良い青年が近付いてきた。これから忙しくなる時間なのに、僕のバイトはこれで終了だ。
今回のバイトはちょっと変わっている。神田君が言っていたように、普通は会場設営とライブのスタッフは別の人が行う。
だが人材不足を補うため、希望者は両方のアルバイトが可能なのだ。但し一日の実働時間は最大八時間、それ以上は割増料金(残業代)が発生する。
この時点で僕は実働八時間、なのでこの青年と交代するのだ。ちなみに彼は退出するお客さんを誘導して、その後会場の撤収を手伝うらしい。深夜だし、ある意味彼の方が僕の何倍も凄い。
「ワァー!」
大歓声が聞こえてきた。どうやらアンコールに迎えられ、カンリバのメンバーがステージに再登場したのだろう。
「凄い歓声ですね」
「そ、そうですね」
交代した青年が話し掛けてきた。どうやら彼はカンリバに興味無いらしい。
「アンコール曲の前に……今日は皆さんにお知らせがあります!」
新リーダー・多摩川二子の声が聞こえてくると、男たちの「かすみーん!」というコールや悲痛な叫びが同時に聞こえてきた。もう見なくてもわかっている……かすみんによる卒業の挨拶だ。
「既に皆さんも報道等でご存じでしょうが……私、利根香澄は……カントリバースを……そ、卒業します!」
ついにかすみんが卒業か……唯一、デビュー後に加わったメンバー、そして最年少……他のメンバーからイジメを受けたとか世間、特にネットでは色々言われているが真相はわからない。
「私はカンリバに後から加入し、色々わからない事だらけで……他のメンバーと上手くやっていけるかとても不安でした! でも皆さんとても優しくて、時にイジリ倒されたり……」
「アハハ」
かすみんの言葉に時々笑いも起きた。最年少で低身長のロリっ子キャラ、そういや時々他のメンバーからイジられていたな。
かすみんは十六歳、学年で言ったら高校一年か……僕も高一を教えているのでこの年齢と接しているが、同世代と比べて案外しっかりしている子だよな。そもそもこんな大勢集まった観客の前で堂々と挨拶出来ること自体凄い。
だが……
「メンバーの皆にはとても助けられました!」
彼女はここで「言ってはいけない名前」を言ってしまう!
「特に……荒川夢乃センパイには感謝の言葉しかありません!」
かすみんの言葉に会場がざわついた! そう、一部ファンの間で「荒川夢乃」はNGワードだったのだ!




