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セフレ・アイドル  作者: 055ジャッシー
第六章「友情」
45/57

怪しい男

 ライブのステージは野球とは逆だ。


 何も知らない人はきっと、ドームライブのステージをバッターボックス側に作ると思うに違いない。ところが東京ドームの場合、観客席は内野側の方が二階席まであり席数が多い。

 つまりメインステージは外野・センター側に作られ、内野席に向けてパフォーマンスが行われるパターンが多いのだ。今回、カントリバースのライブも外野・センター側にメインステージが置かれ、セカンド方向にセンターステージ、その間を花道が繋ぐという構造だ。

 メインステージの櫓を組む時に使った足場、あれ僕も運んだんだよなぁ……何も形跡が無いけど。


 〝ドンッ!〟


 大音量と共にライブが始まった! もの凄い歓声、さすが国民的アイドルグループと呼ばれているカントリバース。盛り上がり方が凄いな……と()()()()

 今、僕が居るのは二階席……なのだが実際は四階の通路、所謂コンコースだ。メインステージから一番遠い場所、しかもここからライブを見る事は出来ない。くっそぉ、階段上ればライブを見られるんだけど……今はバイト中だ。


 ここでの仕事は警備……というのは表向きで(本物の警備員さんも居るし)、実質的には雑用だ。ここには四十番と四十一番ゲートがあるが、席がわからないお客さんへの案内、トイレや施設の案内、不審物や不審者を発見したらバイト先の社員さんに報告する(僕らが直接対応する事はNG)……などだ。


 とはいえ既にライブが始まり、コンコースには僕と同じスタッフTシャツを着た人だけ。ぶっちゃけやる事が何も無い。

 基本的にゲート近くに居るが、時々巡回するようにと言われているので散歩がてらコンコース内を探索した。遅れてやって来たお客さんが居れば、案内と称してステージを見る事が出来るが……今の所そんな人は居ない。


 コンコースには飲食店が立ち並んでいる。座席がある店ではなく、フードコートの様な形態だ。野球の試合ではないが、これだけ大きなイベントなのでいくつかのお店は営業している。

 だが主催者側の意向で今回は座席での飲食が禁じられている……つまりこのコンコース内でしか飲食できない。なのでライブが始まったのにゆったりとコンコース内で飲食する者など居る訳がない。飲食店も今は閑古鳥の大合唱……休憩時間に望みを賭けている様子だ。


 歌ははっきり聞こえているのに、彼女たちの姿を見る事が出来ない。この状況、まるでヘビの生殺しだ!

 いっその事、音を全て遮断してくれた方がどれだけ楽か……どうせここから見た所で双眼鏡が必要な距離なんだから、少し位見たっていいじゃないか!


 桂(相模絵美菜(びーなす))の歌が聞こえてきた……あっ、この曲はびーなすがメインボーカルを務める曲だ。

 歌下手なアイドルだとCDなどの音源を加工する場合があり、ライブでボロが出たり音を絞ったりする事もあるらしい。

 でもびーなすって生歌でも上手いんだな。一度だけラブホでカラオケした事があるが、改めてそう思った。

 しかもあの時は持ち歌を一回も歌わなかった。まぁ桂の時は相模絵美菜を封印しているし、セフレだけどそこまで親密な関係じゃないし……でも一度位、カンリバの歌を聞いてみたいものだ。


 そんな贅沢な希望を持ちながらコンコース内を巡回していると、観客席とは反対側にある階段の踊り場で二人組の男が立っていた。

 ひとりは四十代位で背広姿のサラリーマン風、もうひとりはポケットが沢山ある変わったベストを着た三十代位の目つきの悪い男……どう見てもライブを見に来た客では無さそうだ。彼らは一体何をしているのだろう?


 ――あっ!


 僕は彼らが持っていた「ある物」に気付いた。それは望遠レンズが付いた一眼レフカメラだ! ライブ会場にスマホは持ち込めるがカメラ撮影は禁止! 当然、他のカメラも持ち込み厳禁だが……これは、明らかに不審者だよな?


「あっ、あのすみません!」


 しまった! 僕は反射的に声を掛けてしまった。本来なら声を掛けず、バイト先の社員さんに報告をしなければならない状況だ。でも声を掛けてしまったので仕方ない、僕はこの二人を注意する事にした。


「ライブ会場は撮影禁止ですが……カメラ持ち込まれてますよね?」


 僕の言葉を聞いた目つきの悪い男はそそくさとカメラをバッグに仕舞い、僕を睨み付けた。だがすかさず背広姿の男が、


「あぁこれは失礼、私たちはこのライブを取材に来た者ですよ」

「えっ、では取材の許可証はお持ちですか?」


 背広姿の男はとてもやんわりとした表情で答えたが……怪しい。というのも取材関係者なら許可証をネックストラップでぶら下げている筈。だが彼らの首にはそれが無かったのだ。


「あれ? おかしいなぁ、確かに持ってるんですけどね……あはは、車の中にでも忘れてきちゃったのかな?」


 ますます怪しい! 僕が二人に近付こうとしたら……


「ところであなた! カンリバのメンバーと個人的に親しかったりします?」


 ――なっ!?


 何だこの男は? カンリバのメンバーと……って、まるで僕が相模絵美菜とセフレだって事を知ってるみたいな口調じゃないか?

 僕が一瞬怯むとその二人組は何食わぬ顔でその場から立ち去った。僕は慌ててバイト先の社員さんを見つけると、この二人組の事を報告した。


 あいつら……何者なんだ?

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