表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セフレ・アイドル  作者: 055ジャッシー
第六章「友情」
43/57

ボクの女神

 僕はライブ会場設営のバイトで神田君という大学生と知り合った。昼食の時に話をした所、彼がカントリバースのファンだとわかった。


「ちょっと待って! このバイトってファンは参加出来ないんじゃないの?」


 僕は桂から、カンリ人(カントリバースファン)だとメンバーに気を取られ、仕事にならないからバイト落ちるよと言われたが……居るじゃん!


「普通に居ますよ! あ、もちろんバイト先には内緒ですけど……ほら、あそこにいる彼だって有名なこま(高麗日高)推しの古参(ファン)ですよ」


 本当だ! そう言われてみればここに居るバイトたち……握手会の時に見た様な顔がちらほらと居るなぁ。でも僕は彼らとはまた「別の理由」でファンだという事は言わないでおこう。


「へぇ、そうなんだ! ちなみに神田君は、誰か好きなメンバーはいるの?」


 僕は神田君につい興味本位で聞いてしまった。だがすぐに、僕はこの質問をした事を後悔する。


「ボクですか!? ボクは……びーなす(相模絵美菜)推しです!」


 神田君は目を輝かせて「よくぞ聞いてくれた」と言わんばかりに答えた。


「えっ、あっ……そ、そうなんだ! へぇ~」

「素敵ですよね、びーなすって!」

「え、うん……そ、そうなの?」

「えっ鶴見さん、彼女の良さがわからないんですか!? あのですねぇ、カンリバの中でびーなすの存在は……」


 最初会った時は挨拶すらろくに出来ないほど口下手な神田君が、びーなすの魅力を流暢に早口で語り出した。そういえばオタクって自分の得意分野を語る時何で早口になるのだろう?


「とにかく! びーなすはボクにとって女神(ビーナス)なんです! 生きがいなんです」


 何か以前、同じ様なセリフを聞いた事があるなぁ。それにしても困った……こんな所でびーなす推しと知り合うとは。

 屈託の無い笑顔でびーなすの魅力を語る神田君……僕はその推しともう十回以上セックスしたなどと口を滑らせたら間違いなく彼に呪い殺されるだろう。


 まぁでも……こうやって桂、そしてアイドルは色んな人に影響を与えているんだな。改めてアイドルは凄い存在だと感じた。



 ※※※※※※※



 櫓の設置も終わり、今度は足場の解体と撤去……これも大変な作業だった。その後、僕たちはアリーナ席の椅子を並べる作業に回された。

 球場なので元々観客席はある。だがアリーナ……普段はグラウンドの部分にはもちろん椅子が無い。ここにはパイプ椅子を並べるのだが何せ広い球場……椅子の量が半端ない。

 どうせライブが始まれば皆総立ちになるんだから椅子なんて必要無いだろ……そう思いながら並べていると、


「おおぃキミ! そんなペースじゃライブ終わっちゃうよ」


 スタッフに注意されている若者が……神田君だ。僕たちはパイプ椅子を一度に四から六脚運んで並べているが、彼は一脚ずつしか運べていなかったのだ……そりゃ確かに効率悪い。ところが、


「あっそこ! 曲がってるよ」

「えっ、あぁっ! すみません」


 今度は僕が注意されてしまった。パイプ椅子は寸分違わず並べなければならないのだ。一応目印はあるが、このスピードではどうしても注意散漫になってしまう。

 これは困った、将来正規教員になったら学校行事でパイプ椅子を並べる機会があるだろう。こんな体たらくでは生徒から馬鹿にされてしまう。


 そんな中……えっ? 神田君は一度もミスすること無く、正確に椅子を並べているじゃないか! これはもしかして……


「ねぇ、神田君!」


 僕は神田君に声を掛け、一緒にやろうと持ち掛けた。僕が椅子を運び、神田君は椅子を並べる事に集中させたのだ。

 すると読みは当たった! 僕たちは二人分以上のスピードで正確に椅子を並べる事が出来た。人には得手不得手がある……お互いの得手を活かせば良い結果に繋がるんだな。



 ※※※※※※※



「じゃあボクは先に上がります! 鶴見さん、ありがとうございました!」


 すっかり仲良くなった神田君と、ニャインを交換してから別れた。どうやら彼は用事があるらしく一足先にバイトを終えた。よく見ると何人か、同じ様にバイトを終えた人たちがいる。

 面子は減ったが後は細々とした雑用なのでそこまで忙しくない。ボクはアリーナ席で道具や資材の忘れ物、落し物が無いかチェックしていた。と、そこへ……


「あ、あ……マイクチェック、ワン、ツー……」


 カントリバースのメンバーが! どうやらリハーサルが始まった様だ。桂……もとい、相模絵美菜の姿もそこにある。メンバーそれぞれが自分のマイクチェックをしていると、


「あーあー、まっく(ん)チェック、ワン、ツー」


 おい! 今まっくんって言わなかったか!? 僕が恐る恐るステージの方を向くと、相模絵美菜がニヤついた顔でこっちをチラ見した。


「びーなす! 今、噛まなかった?」

「うん、噛んじゃった! てへ!」


 てへ! じゃねーよ! 僕と桂はもちろん秘密の関係、この日うっかり鉢合わせても無関係を貫こうと思ってたのに……あー、心臓に悪い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ