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セフレ・アイドル  作者: 055ジャッシー
第六章「友情」
41/57

良い話があるんだけど

 ラブホのベッドでセフレの桂(相模絵美菜)と、彼女が所属するカントリバースについて話をしていた。すると彼女がこんな事を言い出してきた。


「そういえばさ、もうすぐツアーのラストなんだけど……」


 彼女たちカントリバースは現在五大ドームツアーの真っ最中だ。福岡を皮切りに大阪、名古屋、札幌でライブを行ってきた。プロ野球のシーズン中でもあるのでなかなか会場が押さえられず、かなり長期にわたるツアーとなっている。


「もちろんまっくんも来るよね?」

「あ、え……いや、それが……」


 そんな中、いよいよラストの公演が東京ドームで二週間後に行われる。ファンクラブ会員でもある僕は当然来るものだと桂は思っていたようだ。ところが……


「えぇっ!? チケット取れなかったぁ!?」


 部屋中、いやホテル中に響き渡る様な大声で桂が叫んだ。実はカンリバのライブは入手困難な(プレミアム)チケット、優先予約できるファンクラブ会員でもチケットが取れない事がある。東京ドームなどというキャパシティのある会場でもだ。


「呆れた! マジで!? 信じられなーい!」


 桂(相模絵美菜)から散々罵られた。いやそんな事言われても……すると桂はスマホを取り出し、


「もうしょうがないなぁ、事務所に聞いて()()()()が空いているか……」

「いやいや、それは止めて!」


 僕と桂はセフレの関係だ! どこの世界に関係者席へセフレを招待するアイドルが居るんだよ!?


「一応、キャンセル待ちは狙ってるんだけど……」

「あー、確率低いわね! しかも今回は急遽、かすみん(利根香澄)の卒業公演も兼ねた事で注目されるの間違いないからね」


 結局、メンバーを卒業する最年少メンバー・利根香澄は事務所の慰留もあり、明日卒業発表の記者会見、そして東京ドームのライブが卒業公演になるそうだ。ま、今更演出内容やフォーメーションを変えたくない……というのが本音だろう。


「かすみん……卒業したらどうするか知ってる?」

「芸能界も引退するみたいよ! 何かね……山梨に知り合いがいるとかで、そっちで普通の生活するって言ってた……あ、これも内緒よ」


 まだ十六歳って事は高校生……何があったかは知らないが、まだまだ人生やり直せる年齢(とし)だよなぁ! 推しでは無いが、カンリ人(カントリバースファン)として彼女の第二の人生を応援してやりたい。


「で、どうすんのよ……チケット」


 忘れてた! 僕だってその日はわざわざバイトのシフトを断ったのに! しかも断るのが後ろめたかったので、他の人が休んだ代わりにシフトに入ったりして一生懸命働いていたんだぞ!


「あっそうだ!」


 と、その時桂が何かを思い出したかの様に声を上げた。


「まっくん、その日って一日中空いてる?」

「あ、あぁ……その日のバイトは全部断ったけど」

「そう、よかったぁ……あのさ、良い話があるんだけど」


「……え?」



 ※※※※※※※



 そしてライブ当日……の朝。僕は会場の東京ドームに居た。ちなみにライブが始まるのはこの日の夜だ。


「はーい! こちらの十名は機材の運搬お願いしまーす!」


 会場内には大勢のスタッフ、職人、そして大学生風の若い男たちが……どうしてこうなった!?



 ※※※※※※※



 話はラブホの会話までさかのぼる。


「えっ、スタッフのバイト?」

「そう! 会場の設営とライブ中のスタッフのバイト! 特に設営は毎回人手不足で大変らしいのよ」


 確かに……これだけのイベント、もちろんカントリバースのメンバーだけで出来る事じゃない。企画から演出、演奏や音響、舞台装置の操作や設置、そしてグッズ販売や客の誘導、警備……様々な人によって支えられている。


「ウチの事務所からイベント会社の方へ問い合わせ出来るから……まっくんさえ良かったらマネージャーに聞いてみようか?」

「えっ、でっでも……」


 要するに裏方だよな? という事はライブ自体は見られないじゃないか。


「大丈夫よ! 会場設営も後半になってくると私たちもリハ(リハーサル)始めるから……運が良ければタダで聞けるかもよ!? それにライブ会場のバイトだったら、運が良ければ客席や舞台袖で直接……悪くても雰囲気だけは味わえるわよ」


 いやファンがライブの雰囲気しか味わえないのはヘビの生殺しだわ。でもこうしてメンバーの一人と知り合った手前、見に行かなかったでは済まされないだろう。

 それに裏方だったら、運が良ければ舞台裏とかで僕の推し「渡良瀬碧(ぐりんちゃん)」に会えるかも……よし、背に腹は代えられん! 僕は桂こと相模絵美菜に会場設営とライブ中のスタッフ、二つのバイトをお願いした。


「あっ、まっくん! バイト先にカンリ人(ファン)って事は絶対に言わないでね! たぶん落とされるから」


 まぁファンだったら仕事に身が入らないだろうな。こうして……バイトを休んだ僕はこの日、別のバイトをする事になった。

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