《番外編》カントリバースについて
桂と梅子の二人と同時に関係を持った「あの日」から約一ヶ月が過ぎた。
季節は七月……平年より十五日も早く梅雨が明け、翌日から最高気温が三十度を超える真夏日が続く中……僕と桂は相変わらず、エアコンの効いたラブホで逢瀬を重ねていた。まぁ僕たちは恋愛関係では無いので、逢瀬という言い方が正しいかどうか甚だ疑問だが。
だがこの日の桂は気分が酷く落ち込んでいた。セックスも上の空で、正直乗り気ではなかったようだ。
「どうしたの? 何かあったの?」
「まっくん……これはまだ誰にも言っちゃ駄目だよ」
予め桂が僕に対して口止めをした。僕には墓場まで持って行かなければならない秘密が沢山有り過ぎる。今更秘密の一つや二つ……何て事は無い。
だが今回、桂が持ち込んで来た秘密はカントリバースファン、通称カンリ人(管理人)の僕にとって衝撃的な内容だった。
「実はね……かすみんが卒業するの! ドーム(ツアー)あと一ヶ所残ってるっていうのにショックだわぁ」
これは大ニュースだ! かすみんこと「利根香澄」はカンリバ最年少の十六歳・メンバーカラーはローズピンク、一番背が低くメンバーの中でロリっ子キャラとして人気があったのだが……
「えっ、だってかすみんは後から入って来たメンバーじゃん! 在籍期間が一番短いのに……何で?」
「うん、私たちも本当の理由はわからないんだけどね! まぁでも、何となく予想は付くんだけど……」
「ひょっとして……ゆめのんの事?」
「えっ、やっぱわかる?」
ゆめのんとは元リーダー「荒川夢乃」の事だ。ショートカットが特徴の十八歳でメンバーカラーはローズレッド。元々このグループでは一番歌唱力があり作曲までこなす絶対的エースだったが、今年の四月に枕営業そして自殺未遂というスキャンダルを起こしグループを脱退……実質的には解雇となった。
それ以降、かすみんに変化が起きた。いつもの元気が無く、先日の握手会も欠席した……時期的に考えてゆめのんに影響された可能性が高い。
「あの子、ゆめのんの事メッチャ好きだったからねぇー」
「あっ、やっぱそうだったんだ! でもそれを言ったらにこるだって……二人は付き合ってるって噂もあったよね?」
にこるとは現リーダーの「多摩川二子」の事。ロングの黒髪が特徴の十九歳、メンバーカラーは紫。気の強いイメージがあるが、ゆめのんの一件以来やはり元気が無い。表向きには新リーダーになったプレッシャーと言われているが、一部ファンの間ではゆめのんと付き合っていたが別れた……という噂もある。
「さぁ? それは……私も良くわからないけど」
この桂の反応……信憑性が増してきたな。
カンリバは脱退した「荒川夢乃」を除いて現在八人、今話題に出て来た「利根香澄」と「多摩川二子」以外のメンバーは……
みさっきーこと「夷隅美咲」、元気キャラでムードメーカーの十八歳、メンバーカラーは菜の花の様に鮮やかな黄色。
こまちゃんこと「高麗日高」、ちょっとオタク気質のある眼鏡っ子の十八歳、メンバーカラーは青緑。
ちぇりーこと「鬼怒川櫻」、ファンを惑わす小悪魔系キャラの十七歳、メンバーカラーは桜なのに何故かオレンジ色。
なかひーこと「那珂常盤」珍しい名前だが多分芸名だろう。真面目な優等生キャラの十七歳、メンバーカラーはモスグリーン。
そして僕の「推し」、ぐりんこと「渡良瀬碧」、明らかにネタとわかるツンデレ系の十七歳、緑なのに何故かメンバーカラーは茶色。
でもって最後に……びーなすこと「相模絵美菜」、メンバーカラーは水色。清楚系キャラの……
「あのさぁ、前々から気になってたんだけど……」
「えっ、何?」
「桂って……確か二十歳だったよね?」
「うん、そうだけど……」
「びーなす……十八歳だよね?」
「だって、あのメンバーで最年長なんて言いたくないじゃん」
年齢詐称していやがった! しかも清楚系って……そう、この自称十八歳、清楚系の相模絵美菜とは今、僕の目の前にいる……
裸のままラブホのベッドで横たわっている「鮎川桂」、その人だ。
……もう何が真実で何が虚構なのかわからない。
(作者より)
この設定は、この後書く予定の連載小説にそのまま引き継がれます。




