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セフレ・アイドル  作者: 055ジャッシー
第四章「告白」
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酒匂梅子

 突然僕の目の前に現れた「酒匂梅子」という女性。どうやら桂の友人らしいのだが……彼女は一体何者なのだろうか?


 この人は二十代後半から三十代……所謂アラサーに当てはまりそうな風情を感じる。少なくとも二十歳の桂と同世代には見えない。

 同世代の友人じゃなければ……仕事仲間? 従姉妹? あっ親戚じゃ友だちとは言わないか。セフレである桂のプライベートにそこまで踏み込む気は無いが、ここまで桂との共通点を見出せない「友だち」だと逆に興味をそそられる。


「あ、あの……失礼ですが、桂……鮎川さんとはどういう御関係でいらっしゃいますか?」

「うーん、私の方こそキミが()()()()とどういう関係なのか気になるんだけど」

「そっ、それは……」


 セフレなんて言える訳がない! ここは適当に仕事関係とか嘘をついてごまかそうか? でもこの人も仕事関係だったらボロが出てしまう……どうしよう! 僕が返答に困っていると、


「なーんてね! もちろんキミの事は知ってるよ……セフレの()()()()!」


 ――なっ!?


 この人……僕と桂の関係はおろか、桂だけが使っている「まっくん」というあだ名まで知っている。


「なっ、何者なんですかあなたは!?」


 僕は思わずこの女性に向かって「何者」と口走ってしまった。すると彼女はその質問を待ってましたとばかりに不敵な笑みを浮かべると、


「私? そうだなぁー、まぁキミたちの()()ってとこかなー?」


 今まで面識の無かった人間が「恩人」と名乗るか? 意味わからん。


「ねぇキミ……いや、鶴見君! 今夜ヒマ?」

「……えぇ、今日は特に予定無いですけど」

「あっそ! 私、今から仕事なんだけど……良かったら私の店に来ない? その時に詳しく教えてやるよ!」


 今から……って、もう夜になるぞ。私の店……だとしたら水商売か?


「もしかしてお金掛かるの心配? 大丈夫、私がおごるよ」


 そう言うとこの怪しい女性「酒匂梅子」は、僕に店の名前と手書きの地図それと待ち合わせ時間を書いたメモを渡し、大量のアイドルDVDを抱えながら街の中へと消えていった。


 店へ入るのに待ち合わせ時間? 彼女の出勤時間か……よくわからん。



 ※※※※※※※



 その日の夜、僕は酒匂梅子に教えられた「店」の前にやって来た。想像していた通り、ネオンが輝く歓楽街の中にあった。だが……


 ……ものまねショーパブ?


 これは想像と違っていた。ショーパブは初めてだが、周囲に比べてより一層ネオンが輝くこの場所は決してぼったくる様な店では無いだろう。

 入り口で酒匂梅子の名前と僕の名前を告げると、店の人がチケットを渡してくれた。なるほど、それで待ち合わせ時間が必要だったのか。

 指定された時間になると他の客と一緒に店内へ案内された。店内入って奥にはステージが置かれ、客席には大きな椅子とテーブル……僕は行った事無いが、何となくディナーショーの会場の様なイメージだ。

 隣には大量の料理……ビュッフェスタイルだ。そういや別れ際に酒匂梅子が「お腹空かしてから来てね」と言っていたが……理由がわかった。

 飲み放題も付いていたので、普段は第三のビール(※)しか飲めない僕はここぞとばかりに生ビールを飲んでいた。すると司会者らしき人がステージに立ち「ものまねショー」が始まった。


 僕は物真似には余り興味がない。本人と似てるかどうかはさほど気にせず、話術やネタで笑う程度だ。

 次々とステージに上がるのはテレビで見た事のあるものまね芸人、歌がとても上手いタレント……温かい目で見てやるしかない学芸会レベルの芸人も居た。

 そういや酒匂梅子はここで働いているという話だが、まだ姿を現してない。彼女は裏方? それとも……もしかして出演者? いやいや、正直どの芸能人にも似てない所謂「地味子」の顔だったぞ!


「皆様お待たせ致しました! 次は当店が誇るスーパーアイドルグループ『カントリ()()()』の登場です!」


 小柄な司会者に呼ばれて登場したのは何と、カントリバース……ではなくカントリ()()()!? 名前からして嫌な予感しかしないのだが……


 やっぱり! 歌もダンスも……見た目のクオリティーも低い、ネタ最優先のカンリバだった。おいおい、先日脱退した「ゆめのん(荒川夢乃)」も居るけどネタ的にヤバくねぇか?

 特にあの立ち位置で歌ってる奴! まさかと思うが、あれが僕の推しの「ぐりんちゃん(渡良瀬碧)」なのか!? ガチのファンが見たら間違いなく殺害予告を送り付けられるに違いない。


 とは言ったものの……何人か似ているメンバーもいることはいる。特に「びーなす(相模絵美菜)」のクオリティーはかなり高い。ぱっと見、本人と間違えそうなレベルだ。

 僕がものまねの相模絵美菜へ釘付けになっていると、そのものまね「びーなす」と視線が合ってしまった。すると彼女はダンスの振りとは関係無く、僕に手を振って来たのだ。


 あれ? 僕はこの時ようやく気が付いた。この物まね「びーなす」……



 まさかと思うが……「酒匂梅子」か?



(※)この作品は2017年の設定……現在は使われていない呼称です。

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