k
マッチングアプリのサイトに登録して数日が経った。
アプリに対して半信半疑の僕は、未だにどの女性のプロフィールに対しても「いいね」をしていなかった。
その間、数人の女性から「いいね」が付けられていた。だが友人から事前にアドバイスを貰っていた僕は、そのプロフィールが業者、あるいはお金や勧誘目的の人による「罠」だと見抜いていた。
そんな中、そろそろ自分から探してみようかと思っていた矢先、ちょっと気になる「いいね」が付けられていた。
――それは【k】という二十歳のフリーターからだった。
セフレで二十歳……この時点で十分疑わしいが、彼女のプロフィール写真は自分で撮った感じの「猫」だった。友人の話だと、真剣な交際を希望する人なら自分の写真、反対に罠ならモデルの様に魅力的な女性の写真を貼り付けるらしい。
しかもプロフィールにはセフレを匂わせる文言が……もちろんこれだけでセフレ目的と判断するのは時期尚早、お金や勧誘目的ということは否めない。
ただプロフィールは手抜きせずちゃんと埋めている。住んでいるエリアも近く、フリーターなので土日も含めた昼間でも会うことができるという……。
もしかして……僕が平日の昼間も時間が取れると自分のプロフィールに書いたことで「いいね」が付けられたのだろうか?
まぁ僕にとっては好都合すぎる条件。疑わしい部分だらけだが、とりあえず僕はこの「k」という女性に「いいね」を付けてメッセージを送った。
※※※※※※※
翌日、僕のスマホにメッセージが届いた……kからだ。
ただ残念なことに、彼女からは『できるだけ早くお会いしたい』という内容……友人の話だと、すぐに会いたがるのはお金や勧誘目的などが多いらしい。
だが一つだけ気になることが……そういう相手のメッセージでは、大抵お金の話が出てくるのだそう。例えば「ホ別」、どうやらホテル代が別という意味らしいのだが、彼女からはそのような文言は一切ない。
それどころか、最悪ブロックされてもいいという覚悟で「収入が少ないのであまり派手なデートは出来ませんが」と鎌を掛けてみたら「そういうお金は全て私が出します」という返信まで来た。
遊び代を全て持ち、いつでも遊べる二十歳の女性……まるで鴨が葱を背負って来るような展開は、期待よりも怪しさが十二分に勝っている。しかも数回のやり取りで、彼女はセックスを匂わせる発言を何度もしてきたのだ。
どう対応していいのか……困った僕はあの友人にニャインで相談してみた。すると『それは怪しい』『罠の確率高いよな』との返事が……まぁそうだろうな、と僕の考えにお墨付きを貰い安心していると、
『でも一度会ってみれば?』
友人から予想外のメッセージが来た。僕が理由を聞くと、もしかしたらその相手もマッチングアプリ初心者の可能性があるとのこと。さらに
『罠でもいいじゃん』
『失敗を恐れていたらいつまで経っても前に進めねーぞ』
――今の僕には何よりの激励だ。
聞けば友人もマッチングアプリで何度も失敗しているという。僕も同じ轍を踏む可能性が高いが、とりあえず駄目元で会ってみよう。
僕はkに「会いたい」という内容のメッセージを送った。ここまでのやり取りでお互い「セフレ目的」だということは承知している。
僕たちはスケジュールを調整し、やっと会う約束を漕ぎ着けた。二人とも仕事が入っていない平日の昼間だ。ただ、後になってわかったことだが……
それは一般的な「セフレの出会い」とは、かなり違った出会い方だった。