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セフレ・アイドル  作者: 055ジャッシー
第三章「秘密」
21/56

温もり

 横を向いて寝ていた僕の背中に、桂が体を密着させて来た。


 今夜は桂と初めて一夜を過ごすことになるが……セフレってここまでやっていいのか? 正直セフレ初心者の僕にはよくわからないのだが。

 でもまぁこれは、恋愛感情とは別物に違いない。桂は僕にその様な感情が無い事くらいわかっている。きっとこれは彼女にとって愛撫に近い、性的な感情を高める行為なのであろう。


 けれども僕は……この桂の行為に対してあまり快く思ってはいない。


 僕には恋人がいた……でも二年ほど前に、ある事が原因で別れてしまった。今でも彼女の事を忘れたくない僕はそれ以来恋人を作ろうとしなかった。桂をセフレに選んだのも、彼女が元恋人とは全く違うタイプだったのが理由の一つだ。

 もし桂に元恋人の面影が僅かながらでもあれば、恐らく今の関係にはなっていなかっただろう。元恋人の事を忘れたくなかった僕は他の女性に対して、元恋人を思い出させるような全ての類似点を投影したくなかったのだ。


 そして今、背中に寄り添う桂の身体から体温が伝わって来た。もう二年以上感じた事の無い温もりだ。

 だが不覚にも彼女の温もりを感じた僕の脳裏に、別れた元恋人との思い出が甦ってしまったのだ。なので今、僕はこの状況を不快に思っている。

 ところが……条件反射的に桂から離れようと思っていた僕は、意外にも密着していた桂から離れる事が出来なかった。そのまま彼女の温もりに包まれ……これは自分でも理由がわからなかった。


 桂とはセフレの関係だ……それ以上でもそれ以下でもない……元恋人の面影は微塵も感じない……カンリバのファンだが相模絵美菜の推しではない……

 じゃあこの感情、この温もりは一体何だ? そんな事を考えている僕の目の前に突然、見た事が有る様な無い様な風景が飛び込んできた。



 ※※※※※※※



「あれ? ここは……?」


 アパートの一室……こんな部屋に住んだ記憶は無いのだが、どうやら僕の部屋らしい。僕は布団の中で女性と抱き合って寝ていた……


 ――これは! 別れた元恋人だ!


「鶴見くん、おはよう! 今日もバイトの面接行くの?」


 彼女とは同棲していた。僕は社会人一年目……何とか非常勤講師として採用されたもののコマ数(授業時間)が少なく、実質アルバイトで生計を立てていた。


「あぁ、今日はコンビニのバイトだけど……正直不安だよ」


 その一方、一歳年上の彼女は正規の教員として安定した収入を得ていた。同棲とは言っても彼女の収入に頼ることが多く、正直負い目を感じていた。

 でも彼女はそんな事を気に留めることなく、僕が教員採用試験に合格するよう全力で応援してくれていた。


「そうねぇ……鶴見くんは塾講師のバイトに専念して、生徒さんと出来るだけ接した方が将来的にも良いと思うんだけど」


 彼女は僕の事を名前ではなく名字で呼ぶ。大学時代に知り合ってからお互いの呼び方がそのまま続いていたのだ。


「ごめん()()()()! 僕が不甲斐ないばかりに、塾講師クビになっちゃって」

「鶴見くんのせいじゃないわ! まぁ次も頑張って」


 さっきまで布団の中に居たのに、いつの間にか彼女はスーツに身を包み出掛ける格好になっていた。狭いアパート……とは言ってもここがどこなのか心当たりがないのだが……の玄関で彼女を見送る。


「いってらっしゃい! 今日も残業……だよね?」

「テストの採点あるからね! あっそうそう! 鶴見くんに伝えなきゃいけない事があったんだっけ……」

「えっ、何?」


 僕は何か良い話だと信じて疑わなかった。そういやこの日は僕の誕生日(実際には違う日なのだが何故かそう思い込んでいる)、彼女から何かプレゼントがあると根拠のない期待をしていた。

 だが次の瞬間! 何故か彼女の顔が見えなくなり、玄関には誰だかよくわからない人が立っていた。そしてその人は僕にこう言った。



「鶴見くん、私がいつまでも存在すると思ったら大間違いよ」



 ※※※※※※※



 ――はっ!


 何だ、夢だったのか! あぁ良かった……いや、良くない! これは見たくもない夢……悪夢だ。


 スマホのアラーム音が鳴る前に、僕は見知らぬ部屋のベッドで現実を迎えた……あぁそうか、僕は桂とラブホで一夜を共にしてたんだっけ。

 僕は今日の午前中に授業がある。本来ならチェックアウトまで時間があるのだがゆっくりはしていられない。桂も今日はオフなのだが、この後友人と会う予定があるそうだ。


 隣では桂がまだ寝ているみたいだ。彼女は僕に背を向けた状態でピクリとも動かない……随分眠りが深いんだな。

 まぁまだ時間に余裕があるから、先に起きてコーヒーでも飲もうか……と思っていたら、思いもよらぬ言葉が桂の口から出てきた。


「い、いやだぁ……」


 ――えっ?

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