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セフレ・アイドル  作者: 055ジャッシー
第三章「秘密」
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添い寝

 カラオケの途中で桂が突然気を失って倒れた!


「えぇっ!? ちょっ……大丈夫?」


 突然の事で僕は狼狽したが、しばらくすると桂の口元から


「すぅ……すぅ……」


 寝息が聞こえてきた……どうやら彼女は眠気を堪えながらカラオケで歌っていたらしい。そりゃ無理もない、今日は握手会のイベントがあったり……きっと他の仕事もこなしてきたのだろう。

 売れっ子アイドルなのだから相当な仕事量に違いない。もし彼女が会社員なら間違いなく「社畜」と呼ばれていただろう。そんなハードスケジュールをこなしてから僕と二回もセックスして、そしてカラオケ……彼女はどれだけバイタリティーが強いんだ? たった今、電池が切れたように寝た事で彼女はやっと人間らしい姿を見せた気がする。


 僕は桂を仰向けに寝かせ布団を掛けた。カラオケの電源を切った所で今度は僕にも睡魔が襲い掛かって来た。

 そういや僕もここ最近、kの正体が気になって睡眠不足に陥っていた。そして疑問が解消された満足感、いや解放感からか……僕も布団の中に潜ることなく寝てしまった。気を失ったと言うのが適切な表現かも知れない。



 ※※※※※※※



「ねぇ……ねぇってば! まっくん起きて!」


 どの位の時間が経ったのだろうか、気が付くと僕は桂に揺り起こされていた。


「あ、あぁ……」

「私も寝落ちしちゃったけど、まっくん布団掛けてくれたんだ! ありがと」


 あぁそういえば……そうだっけ? 僕は目が覚めてすぐなので、まだ今置かれた状況がよく理解できてない。


「でもまっくん、こんな格好で寝てたら風邪引くよ!」

「あ、あぁごめん」


 どうやら中途半端な状態で寝落ちしたので夜中に目が覚めたらしい。そういや歯磨きとかしていなかったな。僕と桂は歯磨きや洗顔などを済ませると、今度は二人でベッドに入った。でも……


 ――今度は寝られない!


 専門的には中途覚醒と言うらしいが、中途半端に寝てしまったせいで今度は眠れなくなってしまったようだ。

 しかも僕が眠れない理由がもうひとつ! 僕の隣には……あの国民的アイドルグループ・カントリバースのメンバーである「相模絵美菜」がいるのだ!

 いくら本当の自分が「鮎川桂」だと言われても、化粧を落として見た目を変えた所で絶対に意識してしまう。例えるなら間違い探しの答えがわかった瞬間、今まで気づかなかった場所に対して違和感しか覚えなくなってしまった状態だ。

 もう彼女とは何度も体を重ねている。だがセックス以外でこうやって寄せ合うのは初めてだ。意識すればする程、僕の心臓はドキドキして眠れなくなってしまう。


「ねぇまっくん、起きてる?」


 桂が話し掛ける声が聞こえてきた。彼女とは少しだけ間を開け、お互いが背を向けて寝ている状態だ。僕たちはセフレ……セックス以外は干渉しない、という考えを体で表現した形になっている。


「起きてる……けど」

「あのさぁ、ちょっとお願いがあるんだけど……聞いてくれる?」

「えっ、何のお願い?」

「それは……言えない」


 いや何のお願いかわからなかったら返事出来ないだろう! もしここで「ウン十万の壺買って」と言われて「はい、いいですよ」何て言える訳がない。


「いいから! イエスかノーどちらか言って!」


 こりゃ半分脅しだ! まぁここで壺を買えとか何かの会員になれなどとは言ってこないだろう。僕が「いいよ」と言うと桂が思わぬ行動に出た。


「ありがと! 実は私、抱き枕がないと寝られない人なの」


 何と桂は僕の背中に密着してきた。完全に僕が抱き枕にされた状態……桂の吐息が僕の肩甲骨辺りに吹き掛けられている。

 この状態、距離を保とうとしているセフレとは明らかに違う行動だ。こんな状態でアイドルの相模絵美菜を意識するなと言われても無理な話。だがそんな僕の心の中を知ってか知らずか、桂は自らの禁を破るような事を聞いてきた。


「ねぇ、まっくんはカンリバのメンバーで誰『推し』なの?」


 何で今更そんな事を聞いてきた? 今さっき、僕の背中に寄り添っている女性(ひと)はアイドルの相模絵美菜ではなくセフレの桂だと自分で言ってた筈。

 それとも、ここで「びーなす(相模絵美菜)推し」だと言ったらセフレの関係に悪影響が出るのか? じゃあここはひとつ、正直に言った方が良いのだろう。


「あっ僕は、ぐりん(渡良瀬碧)推し……」


 と答えた瞬間、桂は僕の腕を思いっきり殴ってきた。


()てっ!」

「もぅ! そこは嘘でも『私』って言ってよ!」


 驚いた僕が後ろを振り向くと、桂はふくれっ面で僕の顔を睨みつけていた。えっ何で怒ってるの!? 今の自分は相模絵美菜じゃないって言ってたのに……



 女心って……わからん。

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