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マッチングアプリ

 

「マッチングアプリ?」


 大学時代の友人と久しぶりに飲んだ……安い居酒屋チェーン店だ。そこで僕はその友人から「マッチングアプリ」なるものを教えてもらった。


「お前もいつまで元カノ引きずってるんだ!? いい加減前を向けよ」


 この男とは大学時代に同じサークルで知り合った。大学卒業後いきなり海外で生活するなど、兎に角やることが派手な人間だ。僕が彼女とこっそり付き合っていたことは知っていたが、別れた理由までは知らない。

 マッチングアプリとはお互いが共通する趣味などを対照し、新たな出会いを見つけるためのアプリケーションソフトだ。主に男女の出会い、つまり婚活などで使われるものだが……。


「だから彼女要らねぇし、ましてや結婚なんてするつもりねぇから」

「いや婚活アプリじゃねーし! マッチングアプリって言ってもいろんな種類があるんだよ! でもってこのアプリはな……」


 そう言うと友人は、耳を疑いたくなるような言葉を口にした。



 ――セフレ?



「そっ、これは表向き恋人募集を謳ったアプリだが、実はセフレが見つかることで有名なんだぜ」


 セフレとは「セックスフレンド」の略……つまり、お互いが後腐れなくただ単純にセックスだけを楽しむ間柄って意味だ。

 一応聞いたことはあるが、そんなものは僕にとって芸能人の不倫くらい別次元で無関係な話だと思っていた。なのでその言葉を聞いた僕は、明らかに心臓の鼓動が早くなっていることを感じた。


「いやでも……そんな上手い話なんてある訳ねぇだろ?」

「そんなことねぇよ! 女だって性欲あるし、色々な事情で相手を欲しがってる奴もいる! それに……」

「ん? 何だよ」

「実は俺もこのアプリでセフレ見つけたからな、しかも二人だ」

「マジか!?」


 友人の告白に思わず口から心臓が出そうになった。ネットのレビューなどは半信半疑だが、こうやって身近な人間が実践していると信憑性が高くなる。


「もう別れて二年だろ? まぁお前の気持ちもわからんでもないけどさぁ……合コンも断ってるらしいし、いい加減俺も心配になってくるわ」

「いや、でも……」

「まぁ相手の女も立場をわきまえてるからな……恋人として付き合う訳じゃねーから彼女に対しても面子が立つだろ!?」


 面子が立つかどうかはわからないが……確かに友人の言う通り、いつまでも彼女の幻影に囚われているのもどうかと思う。別れたという事実は事実なので、いつか次の出会いを見つけなければいけないのかもしれない……今はまだ無理だが。

 まぁお互いのプライベートに踏み込まないというのなら、セフレという関係も有りなのだろう。ただ……そんな上手い話が石ころの様に転がっているのかは正直疑問が残る。


 とりあえず僕は、その友人から紹介されたアプリをインストールしてみた。


「えっ、男は会費が掛かるのかよ!?」

「まぁまぁ! そのくらいの出費は男として覚悟しなさい……あっ生中二つ!」


 そろそろアルコールは止めようと思っていたら、友人が勝手に生ビールを注文してしまった。


「それでは鶴見君の新たな出会いにカンパーイ!」


 ――まだ出会ってねぇよ……ったく、調子の良い奴だ。


 まぁ二~三ヶ月ほど試してみて、何も変化が無ければ退会すればいいか。友人と別れ家に帰った僕は、軽い気持ちでプロフィールを書き込んだ。

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