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セフレ・アイドル  作者: 055ジャッシー
第三章「秘密」
19/56

本当の私

 

「ごめん……それは絶対にダメ」


 セフレのkことアイドルの相模絵美菜が僕の呼び方を変えた。マッチングアプリで使っていたニックネーム「レイト」から、本名が末吉なので「まっくん」と呼ぶようになった。でも本当の読みは「すえきち」なのだが……。

 せっかくなので僕も彼女の事を、相模絵美菜の愛称である「びーなす」と呼びたかったのだが、それは頑なに拒否されてしまった。


「まっくん、さっきも言ったよね?」

「え?」

「私はね……今ここに居るkが()()、アイドルの相模絵美菜は()()なのよ」

「あっごめん! でも僕だけアプリのニックネームで呼ぶってのも……」


 僕がそう言うと相模絵美菜、いやkはバッグの中からある物を取り出して僕に見せた……それは前にも見せてもらった運転免許証だ。だが今回は名前の所を指で隠していない。


「私ね、公式(プロフィール)にも書いてないんだけど……本名を『鮎川(けい)』って言うの! だからkっていうのはある意味本名! つまり(これ)が本当の私なの」


 そういえば前に年齢を確認するため、同じ様に免許証を見せてもらったが……この時指で隠していた氏名欄に「圭」という文字があったのを思い出した。そうか、木へんがあったのか。


「あっ私の本名は絶対に秘密だからね! 本名がバレたら過去もバレて、アイドル続けられなくなっちゃうから」


 ……この人はデビュー前に一体何をやらかしたのだろうか?


「それに……身バレしたら()()()()だってそれなりの覚悟が必要よ! 週刊誌に追われる、ネットで特定される、でもってキミも身バレしてプライベートが……」

「わっ、わかったわかった! 絶対に言わないよ」


 そんな事は言われなくても……僕はk=相模絵美菜の秘密は墓場まで、現金輸送車並みのセキュリティーで持って行くつもりだ。


「じゃあ、読みは一緒なんだけどこれからは『桂さん』って事で……」

「鮎川でもいいよー」


 いや、それは何かまた距離が離れていくような気が……「k」が「桂」となっただけでも僕にとっては彼女との距離が少し縮まった気がする。

 だが、まだまだ彼女には僕の知らない秘密が多すぎる。なので僕と桂はただの友だち……でもなく今は「セックスフレンド」という間柄なのだろう。


「あっ、そういえばホテル代! いつも現金でクレカ使わないのって……」

「あぁあれね……私が持っているカード、実は事務所のカードなの!」

「事務所……まさか法人カード?」

「イヌスタとかで上げる物とかは自由に買えるんだけどねー」


 ――そりゃラブホ代は経費で落とせる訳がないよ。



 ※※※※※※※



「ねぇ、せっかく今夜は泊まりなんだからカラオケでもしない?」


 桂が誘って来た。そういやこの短期間でラブホは五回目だが、まだカラオケを利用した事は一度も無かったな。

 普段はシャワー浴びてセックスするだけのラブホテル……だがここにはカラオケなど、楽しめる機能が沢山ある。よく考えたら部屋でカラオケが出来るなんて、普通のホテルには無いだろう。


「カラオケ? まさかカンリバの曲でも……」

「歌わないわよ」


 答えは予想できたが敢えて桂に聞いてみた。そう、彼女は虚構(相模絵美菜)と現実(鮎川桂)を見事に使い分けているのだ。桂がリモコンで曲を選んだ。流れてきたのは……


「えっ……これって?」

「そっ、Φ(ファイ)ブレイクだよ!」


 ライバルの曲じゃん! Φブレイクはロコドル(ローカルアイドル)から全国に進出したアイドルグループで、カントリバースと人気を二分する……そう、ライバル的な存在だ。


「えっ、何で?」

「何でって? 好きだもんあの子たち……悪い?」

「い、いや……」


 桂は平然と、そして堂々と「好きだ」と言い切った。もしかして……この人は世間にどう思われても自分の「好き」を貫き通す人なのかも知れない。


「イエーイ!」


 結局……僕はマイクを一回握っただけで、ほぼ彼女のソロコンサートだった。しかも僕は空気を読まず、うっかりカンリバの曲を入れてしまった。

 だが桂は一瞬ムッとした顔をしたものの、曲が流れると一緒にハモってくれた。要するに「ご本人登場」だ。こんな貴重な体験……もしかしたら僕は、ここで一生分の運を使い果たしてしまったかも知れない。


 だが……


「じゃあ次の曲……いってみよう……か……」


 〝バタッ〟


 桂はマイクを持たまま、ベッドの上へうつ伏せになったまま倒れた。

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