出来る訳がない
――僕は何をやってるんだ!
セフレのk=相模絵美菜? に呼び出された僕は、彼女のプライバシーに踏み込んでしまった事を謝罪し、且つ真相を知りたいと思いここに来た。
ところが、kは今日の事を何も無かったかのように振舞っていた。そんな彼女のペースにすっかり飲み込まれてしまい、気が付いたら僕はバスルームでシャワーを浴びていた。
――どうしてこうなった!?
「あらレイトくん、もういいの?」
「え、えぇ……」
えぇ……じゃないよ! 僕は意志薄弱な自分が嫌いになった。シャワールームから出てきた僕を見た瞬間、kは待ち構えていたかのようにバスタオルを外し、
「……来て」
僕の首に腕を回すとそのままベッドに倒れ込んだ。
――出来る訳がない!!
ラブホに呼び出された時点で少しは予想していたが、今置かれた状況でこんな事出来る訳がない! 確かにkとは既に五回もセックスしているが、これがアイドルの相模絵美菜なら話は別だ。
今日も握手会で彼女目当てのファンが行列を作っていた。全国規模で考えたら彼女のファンはこの何百、いや何千倍もいるだろう。
恋愛禁止のアイドル活動……ファンの多くは彼女たちが恋愛未経験、そして処女だと思っているに違いない。先日の荒川夢乃による枕営業は、多くのファンに衝撃を与えた事からも推測出来る。
ましてやびーなす(相模絵美菜)は清楚系キャラ、真面目で純粋なファンが多いことで知られている。こんな人たちの期待を裏切る事は出来ない。
「今日はね、生理前なの! だからもぅしたくてしたくて……」
僕が躊躇していると、kは構うことなく積極的に攻めてきた。僕は所謂マグロの状態だ。kは普段と勝手が違う前戯でも、全く気にせず愛撫を続けていた。だが僕の緊張感はすぐ身体にも現れ、流石のkにもそれが伝わった。
「もうっ、今日は全然立たないじゃん! どうしたのよ!?」
それは自分が一番わかっているでしょ!? そう、僕は余りの緊張感に耐えられず勃起出来なかったのだ。
さっきまでノリノリで前戯をしていたkの表情が、見る見るうちに不機嫌な顔になった。でもこの様な精神状態で勃起なんて出来る訳がない!
何度も言うが、目の前に居るのはセフレではなく国民的アイドルだ! 僕みたいな一般人とは別世界の人間……重みが違う。すると業を煮やしたkがとんでもない行動に出た。
「せっかく泊まりにしたのにこれじゃダメじゃん!」
「そっ、そんな事言われても……」
「もう我慢できない! レイトくん、私、今からオナニーするから見てなさい」
――!?
突然の事で僕は言葉を失った。だがkはそんな僕の事など意に介さず、ベッドの上で体育座りの様な姿勢になると、自らの手を陰部に押し当てた。
――これはどういう状況だよ!?
例え男女の関係でも、自分の自慰行為を見せる事などそうそう無いだろう。彼女は何を考えているんだ? 僕が呆気に取られていると、
「ちょっと、何ぼさっとしているのよ! もっと近くで見なさいよ」
kは機嫌の悪い声で僕の手を引き寄せた。僕がバランスを崩し倒れ込むと、目の前に彼女の股間がアップとなって現れた。
「はぁ……はぁ……」
その後もkは自慰行為を続けた。僕の視界は、kが小刻みに動かす指と彼女の陰部に独占された。余りにも非現実な状況に僕は、彼女がアイドル……特別な人だという意識を失いかけてきた。
「ねぇ、今日は後ろから……して」
僕の五感は全てkに支配されてしまった。気が付くと僕は……背後から彼女を抱きしめていた。
※※※※※※※
「あぁ、気持ちよかったー!」
結局、kと行為に及んでしまった。そんなつもりじゃなかったのに。
「ほらぁ、ちゃんとやれば出来るじゃん……鶴見末吉くん!」
――げっ! ここでカミングアウトしやがったか!?
セフレのkには本名を一度も告げていない。だが今日の握手会で相模絵美菜には伝えている。
「や、やっぱり! びーな……」
「そう! 私はカンリバ(カントリバースの略称)のびーなす、相模絵美菜よ」
やはりkの正体は相模絵美菜だった。
「末吉くん! あ、まっくんって呼んでいいかなー?」
「えっ、いや……その」
「まっくん、今日は緊張してたねー! あっそれって私がアイドルだから?」
――当たり前だよ!
「でもさぁ……顔見なかったらちゃーんと出来るじゃん」
――!?
そうだった! 彼女の自慰行為を間近で見てからのクンニ(シックスナイン)、そして後背位……
よく考えたらその間k、いや相模絵美菜の顔を一切見ていなかった! そういえばいつもより照明も暗かった。まさかこの人、そこまで計算して……
「ね、わかったでしょ!? 私だって服を脱いだらただの女よ」
相模絵美菜……いや、kは僕を小悪魔の様な目で見つめた。だがすぐに不機嫌な表情になると、
「で……まっくんに聞きたいことが山ほどあるんだけど!」
僕に詰め寄った……僕もkに聞きたいことが山ほどあるんだが。




