kからの電話
kからニャインのメッセージが届いた……いや嘘だろ!?
僕はkの正体を知ってしまった。なので彼女と連絡を取る気はないのだが、向こうだって僕なんかと連絡取りたくないだろう。
割り切った関係、お互い性交渉以外に干渉はしない……セフレという概念から考えたら、僕のやった事は最低の行為だ。
だがこうするしか無かった! 相手は一般人じゃない、誰もが知る国民的アイドルグループ・カントリバースのメンバー「相模絵美菜」だったからだ。
なので彼女とは関わりたくない。これ以上関わったらとんでもない事に巻き込まれるのは明白だ。
このメッセージは未読のままにしよう。でも、もしかすると憤慨した彼女から抗議のメッセージかも知れない。それならば甘んじて受け入れるしかない。
とりあえず画面の上に出るポップアップ画面の通知で確認してみよう。ここで内容が確認出来れば未読にすることが出来る……えっ!?
メッセージには『・・・・・・』しか表示されていなかった。困った、これじゃどんな内容のメッセージかわからない。僕は思わず画面をタップしてメッセージを読んでしまった。
『・・・・(中略)・・・・今から電話していい?』
何だって!? 僕がメッセージを見た瞬間、
〝♪ポポポポポポン!〟
「うわっ!」
音声通話の着信音が鳴った……kからだ! 僕はこのまま無視して電話に出ないのか、あるいは一度電話に出て謝るのか迷った。
でもこのまま着信を無視するのはある意味卑怯なやり方だ。ここは一度、素直に謝った方が真摯な対応と言えるだろう。僕は通話ボタンをタップした。
「すみません!」
開口一番、僕が謝るとkから意外な言葉が返って来た。
『もぅ! 既読付いてるのに何で電話に出てくれないのよ!?』
別の理由で怒られた。
「あっすっ、すみません……でした……え?」
『何で他人行儀? あのさぁ、急な話で悪いんだけど……今夜ヒマ?』
「えっ? あ、空いていますけど……」
『だからぁ何で他人行儀なのよ!? レイトくん、今日何か変よ!』
想定外の質問だ。あと、他人行儀にもなるでしょこんな状況で! それともこの話し方、まさかkはこの期に及んでまだ白を切るつもりか!?
「そっ、そうですか……そうかな」
『そうよ! まぁでも良かった、じゃあ今から会える?』
「えっ!?」
『実はね、明日オフ取れたのよ! だからね、今夜は泊まりが出来るかなって……とりあえずホテルの場所は後で位置情報送っておくから! 何かあったらまた連絡してね……じゃ!』
kは一方的に話すと一方的に通話を切ってしまった。休みの事をオフって……あまり一般人は使わないよな。
――これはどういう状況だ!?
僕がkの正体に気付いた事は、彼女も当然理解している筈だ。なのに今から会いたい? しかも泊まり!? 白を切っているにしても、今更こんな僕に会おうだなんて考えないだろう。
それとも……kと相模絵美菜は本当に別人? いやそれは無い! 彼女と握手会で会った時、初対面の人間に対してあそこまで驚く顔はしなかっただろう。それとも僕が初恋の相手と瓜二つ? まさか……ドラマや恋愛小説じゃあるまいし。
だとしたら一番考えられるのはk、いや相模絵美菜が僕に対して直接謝罪を要求してくる事だ。その位しか思いつかない。
でもまぁ仕方がない、こうなってしまったのも全て僕のせいだ。ここはひとつ腹を括って……彼女に直接会って謝罪しよう。このまま彼女から逃げるように連絡を絶っても、別の理由で胸の奥が痞えてしまいそうだ。
その後kから待ち合わせ時間と、ラブホテルの地図が送られてきた。それにしても……謝るだけなのに泊りが必要か?
そもそもラブホって……密会するんじゃ別の場所でもいいのに。色々と不可解な事が多いが、僕は急いで支度すると家を飛び出した。
あ、そういえば……謝罪するなら菓子折りでも買った方がいいかな?




