表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セフレ・アイドル  作者: 055ジャッシー
第二章「疑惑」
13/57

白を切る

 

「次の方、どうぞー!」


 僕はついにカントリバースのメンバー、相模絵美菜の前に立った。



 ――!?



 普段はどちらかと言えば細い目をしている彼女だが、僕の顔を見るや否やその目は大きく見開いた。ほんの一瞬ではあるが……間違いない! あの表情は僕の姿を見て驚いた時の反応だ。


 やはり……セフレのkはアイドル・相模絵美菜だったのだ!


 だがそこはプロの芸能人、一瞬だけ見開いた目はすぐ元に戻り、まるで何事も無かったようにアイドル・相模絵美菜となって僕に挨拶をした。


「初めまして鶴見……末吉(まつきち)さん!」


 実はカントリバースの握手会には特徴的ともいえるサービスがある。それは並んでいる最中にスタッフがファン一人一人の名前を聞き取り、対面した時にメンバーから名前を呼んでもらえるというサプライズだ。仕掛けがわかっていても、いきなり憧れの「推し」から名前を呼んでもらえるのは嬉しいに決まっている。

 僕もスタッフに名前を聞かれた時、ついうっかり本名を教えてしまったが……僕の名前の読みは「まつきち」じゃなくて「すえきち」だ! きっと彼女のメモには僕の名前が漢字で書かれていたのだろう。


 握手会常連や古参のファンなら「また来てくれてありがとう」とか「お久しぶりです」と言われるらしい。でも握手会初参加の僕には「初めまして」だった。おいおい! 初めてじゃないだろう、もう既に四回も会ってるぞ……ラブホで!

 相模絵美菜=kはあくまでも白を切るつもりだ! だがここで「俺を知らないのかよ!」とか「お前、俺と五回も寝ただろ!?」などと言って騒ぎ出すのは下衆のやることだ。

 第一そんな事をこのアウェイ環境でやったら即、摘み出されて出禁……ブラックリストに登録されるのは確実。ここは一つ、彼女の「芝居」に乗ってあげよう。


「初めまして! 今日はお会いできて嬉しいです」

「私もですよ」


 いや何言ってるんだ! 本当は恐怖とプレッシャーで今すぐここから逃げ出したい気分だ! そっちだって……よく冷静に対応できるよな?

 僕はセフレのk……ではないアイドルの相模絵美菜と握手した。だが手が触れた際、彼女の手が一瞬電気が流れた時の様にピクッと震えた。やっぱり……彼女はあくまでも白を切っているが、こういう時に思わず反応するみたいだ。


「これからも応援してます! 頑張ってください」

「はーい、ありがとうございまーす!」


 余計なことは言うまい……無難な内容の会話をしていると、


「時間でーす」


 会場スタッフのいわゆる「剥がし」に声を掛けられた。十秒なんてあっという間だな。僕は相模絵美菜に背を向け握手会の会場を後に……


 ――!?


 気のせいかも知れないが……最後にチラッと振り向くと、相模絵美菜が僕の顔を睨んでいるように見えた。だがそれはほんの一瞬で、すぐに彼女は次に並んでいたファンに笑顔で対応していた。

 傍らにはカントリバースの公式グッズや、握手会限定グッズの販売も行われていたが……僕は何も買うことなく会場を後にした。



 ※※※※※※※



 自宅に帰った僕は、ベッドの上で放心状態になっていた。


 ――最悪だ!


 間違いない、あの反応……セフレ・kの正体は国民的アイドルグループ・カントリバースのメンバー「びーなす」こと相模絵美菜だ!

 彼女はメンバーの中では「清楚系」というポジション。バラエティー番組でセクハラ発言があると、一歩身を引いて関わらないようにする「お嬢様キャラ」だ。

 そんな彼女がセフレのk!? しかも相手が……僕? そんな事、隕石が頭上に落ちてくる確率より低い……まさに奇跡だ!

 だがその奇跡も終わった。僕がこうやって彼女の「正体」を知ったという事はもちろん、彼女も僕に「正体」がバレたという事に気付いた訳で……


 ――彼女・kは二度と僕に会うことはしないだろう。


 短い期間だったが良い思い出になった。彼女kはセフレとしては勿体無いくらい素敵な女性だった。でも、これ以上関わってはいけない!

 だって彼女は「偶像(アイドル)」、多くの信者(ファン)が崇拝する存在……ただの一般人が独占できるような相手ではないのだ!

 僕はスマホを手に取った。当然、彼女から連絡が来ることも無い筈だ。僕はkの連絡先を消去しようとした。と、その時!


 〝ピロンッ〟


「うわっ!」


 ニャインの通知音が鳴り、僕は思わず大声を出してしまった。恐る恐る画面を見てみると……


 ――え!?


 メッセージの発信元は……何とkからであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ