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セフレ・アイドル  作者: 055ジャッシー
第二章「疑惑」
12/57

握手会

 握手会当日……僕は会場に最も近い駅へ降り立った。


 憧れのアイドルに直接会える……ファンなら誰もが幸せな気分で迎えられるであろうこの日、僕の心は()()で一杯だった。

 駅から若い男がぞろぞろと出てくると、一斉に会場へ向かって歩き出した。きっとここに居る男たちは皆、カントリバースの握手会が目的なのだろう。

 途中コンビニに立ち寄り、朝食代わりのゼリー飲料と眠気覚ましの缶コーヒーを買った。昨夜はほとんど寝ておらず、食事も固形物は喉を通らなかったからだ。


 セフレのkがカントリバースのメンバー・相模絵美菜では? その疑惑が浮上してからというもの、僕の苦悩は食欲不振と睡眠不足という形で現れた。

 だがそれも今日まで。この握手会で実際に相模絵美菜本人と会ってみれば解決するだろう。しかし今、事実を知ろうとする僕と現実逃避したい僕、二人の僕がいるせいで足取りが重くなっている。


 ようやく会場に着いた。並び始めるのは朝のもっと早い時間だが、別に遅れたからといって握手が出来ない訳ではない。もっとも朝早く来たところで一番乗り、いわゆる「鍵開け」は前の晩から並んでいる猛者なので時間の無駄である。

 手荷物検査をクリアして握手会の行われるスペースに入る。本来は握手会以外にミニライブが予定されていたが、諸事情により中止となった。ま、恐らく荒川夢乃が抜けたことで振付やフォーメーションの変更が間に合わなかった……ってところだろう。


 それにしてもすごい熱気だ。ここで「推し」のメンバーそれぞれの列に分かれて並ぶのだが……うわぁ、どのメンバーも大勢並んでいる。こりゃ最低でも二~三時間は並びそうだ。


「申し訳ございませーん! 本日、メンバーの利根香澄は体調不良のため欠席となりまーす!」

「えぇーっ!?」

「何でだよ! かすみん来ねーのかよ!」


 スタッフの謝罪と野太い絶叫が聞こえた。僕は握手会に参加するのは今回が初めてだが、アイドルだって人間……この様な事態も想定内だと思っている。


「どちらに並ばれますか?」


 近くにいた案内係と思しきスタッフに尋ねられたので、


「あ、あぁ……()()()()です」

「相模ですか? ではあちらにお並びください」


 びーなすとは相模絵美菜の愛称だ。僕はスタッフに言われるまま相模絵美菜の列に並んだ。ちなみに隣は僕の推し、ぐりんこと渡良瀬碧の列だ。

 あぁ! 何で初めての握手会なのに推しではないメンバーの列に並ばなければならないんだ! しかもぐりんちゃんの列は、他のメンバーに比べると少し短かい様に見えた。僕もそっちに並んで応援したかった! 一人一回しか握手できないもどかしさ……CDを大人買いする奴の気持ちが少しわかった気がする。

 でもまぁ仕方ない。今回はkが相模絵美菜かどうか確認する事が目的だ。これをハッキリさせないと胸の奥に(つか)えた物が取れない。ぐりんちゃんとの握手は、これから何度も何度も抽選に応募して、いつか実現させてやる!


 想像はしていたが順番待ち……長いなぁ。つまりこれだけ、いや実際にはこの何十倍何百倍も相模絵美菜のファンがいるってことだ。もし、本当にkが相模絵美菜だとしたら……?

 アイドルは恋愛禁止、もちろんカントリバースも例外ではない。という事は、僕はこの人たちに嘘をついている。この人たちを騙している! 屁理屈かもしれないが、実際には恋愛をしていない……だがセックスはしている。

 もし今、こんな事がバレてしまったら謝罪程度では済まされない! 下手すりゃここに居るファン全員から袋叩きに遭っても文句は言えないだろう。


 列もだいぶ進み、最前列でメンバーが何かしている様子が見てうかがえる。実はもう一つ、僕はある「仕掛け」をしていた。

 それは僕が今着ている服……これはkに初めて会った時と同じ格好なのだ! 場合によっては彼女に対する酷い「追い打ち」になるかもしれない。でも彼女の反応を出来る限り確実なものにしておきたかったのだ。


 だが前に進めば進むほど、心臓の鼓動が激しくなってきた。kに対する疑惑、余計な干渉、彼女を追い込む行為、これが事実ならファンに対する裏切り行為……全ての要素が背徳感や罪悪感となって自分自身に襲い掛かってくる。


「次の方、どうぞー!」


 ついに僕の番だ! スタッフのぶっきらぼうな声に促され、僕は……


 カントリバースのメンバー、相模絵美菜の前に立った。

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