2話 女神
どこだ、ここ?
回りを見渡すと、そこは薄暗い石造りの部屋だった。
かなりの広さがあり、部屋の四方にかなり立派な扉が一つずつ。その扉の両脇には、武装した騎士が一人ずつ。
騎士は鎧に右手に持った槍、そして腰から吊るされた剣と、騎士のイメージそのまま。
そしてこの部屋を照らす、天井から鎖で吊るされた、ランタンのようなもの。
明らかに、日本ではない。
そして――
「はじめまして、アオイ・モチヅキ様!」
――目の前の、この女。
誰だコイツ?
桃色の髪に、金色の眼。
フワリとした、ドレス――いや、ローブ?のような服に、金色のティアラ。
とりあえず、何かを知ってそうなコイツに、いろいろ聞いてみるか。
まずは、この女が何なのか、だな。
「えーと、あなたは誰ですか?」
「私の名前は、ロベリア。あなたを召喚した、女神です」
……召喚?
聞きなれない言葉に、頭が混乱する。
「あの、召喚とは一体……?」
「アオイ様は、私によってこちらへと召喚されたのです。それと、もう一つ言わないといけないことがあります」
え?何だ?
「それは、元の世界に戻ることができない、ということです」
「――は?」
戻れない?どういうことだ?お願いだから、間違いであってほしい。
「あの、戻れない、とはどういう……?」
「私が扱う召喚術は、生きた人間を召喚できないのです。もしも、生きた人間を召喚し、あちらの世界の運命を変えてしまってはいかないからです」
「……」
「そのため、あちらの世界から居なくなっても問題はない者のみ、つまりは居なくなっても誰にも気付かれない者や、亡くなった者などが召喚されるようになっているのです」
「……亡くなった者?俺はまだ生きているのですか?」
「私が扱う召喚術は、召喚される対象が既に生命活動を停止している場合、自動的に蘇生させるのです。ですが、あちらの世界では人間の蘇生は不可能。そのため、アオイ様を帰すと、あちらの世界で虫食いが発生し、アオイ様は消滅します」
その言葉を聞きながら、俺は絶望していた。
あの高校に、あんなに頑張って入ったのに……これから最高の人生を過ごすはずだったのに……俺は、それら全部を捨てなければならないのか?
嫌だ。それは嫌だ。何とかして元の世界に帰って、普通に暮らしたい。
「元の世界に帰る方法は、何か無いんですか!?」
「残念ながら……アオイ様は、もうこの世界で暮らすしかないです」
「そんな……」
膝から崩れ落ちる俺に、女神が優しく話しかける。
「ですが、可能性は低いもののあちらの世界に帰れるかもしれない方法が一つだけあります」
その言葉に俺は顔をバッとあげ、女神に問う。
「帰れる方法があるんですか?教えてください!」
「ですが……失敗する可能性が高く……」
「それでも構いません!教えてください!」
「わかりました……その方法とは、魔王を倒すことで手に入れることができる特殊な魔力――霊力を用いてあちらの世界のシステムを改竄し、アオイ様が亡くなった、という情報を消すことです」
「……魔王?」
「そうです。今回アオイ様を召喚したのは、アオイ様に勇者になってもらい、魔王を倒してほしいからです」
「……」
女神の言葉を聞き、俺は呆然としてしまった。
「俺は戦力にならないと思うのですが? だって、ただの高校生ですよ? 魔王なんて、どうやって倒せばいいんだ……」
女神は優しく、しかし確かな口調で答える。
「アオイ様には、勇者としての素質があります」
「でも、俺は……戦ったことなんて一度もないし……」
「いえ、問題ありません。私が扱う召喚術で召喚された者には一つ、スキルが与えられるのです」
「スキル?」
「ええ、そうです。とりあえず、アオイ様のスキルを確認しましょう」
「どうやってですか?」
「簡単です。手のひらを上に向け、こう唱えてください」
言われた通り、手のひらを上に向け、唱える――
「ステータスウィンドウ」
すると、手のひらから光が出て、それが長方形の半透明の板のような形を取る。
「うぉお!」
「なるほど、これがアオイ様のステータス、ですか……」
ちょ、ちょっと!顔近い!横から覗かないで!思春期終わったばかりの俺にはちょっとキツイって!
そんな事を考えながら女神の顔を見ていた――その時。見てしまった。
女神の顔から笑顔が消え、失望したような顔へと変わったのを。
何があったんだ?もしかしたら、このステータスウィンドウとやらが原因化?
そう思い、目の前のステータスウィンドウに目を向ける。
ステータス
アオイ・モチヅキ
種族:人間
年齢:17
レベル:1
体力:50/50
魔力:50/50
攻撃力:50
防御力:50
素早さ:50
固有スキル:『磁石』
えーと、これって強いのか……?
女神の表情がますます曇っていく。
「……『磁石』、ですか。体力、魔力も低い、固有スキルも使い物にならない、ハズレですか……」
女神が手を顎に当て、ブツブツと喋っている。
「あの、女神様?」
「話しかけないでください、ハズレ如きが」
「え……?」
突然の女神の態度の変化に、俺は唖然とした。