表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術師ラークと灰色の混血姫  作者: 古都見
第6章 ノワール
65/90

幽閉

 ノワールがブラン王城へ攻め入ってから、数日が経った。ブラン王城を乗っ取ることは、高位魔術師の抵抗により叶わなかったものの、王族に粛清を加えられたことに、ノワール王ファースは満足していた。


「お前の見立ては、なかなかどうして当たるものだな。リシャール」 


 城が落ちるのは時間の問題と踏んだ王は、シャルムと一部の兵を連れて、いち早く祖国へ戻ることを決めた。そこにはリタも含まれており、シャルムとともに馬に乗せられ、リタは再びノワールの地を踏んだのだった。



「……私のような者が、本当に良いのでしょうか?」



 一行は既にノワール王都へと達し、リタはシャルムからノワール王城へ滞在するよう提案されていた。孤児の出身で身分もなければ、他に類を見ない灰色の髪と瞳。そんな人間が王城の門をくぐっても良いものか、どうしても自信が持てなかったのだ。


 

「何の問題もないさ。君を王城に泊めることは、陛下も承諾済みなんだよ」

「……そう、ですか」



 ここへ来る道中も、久し振りに黒髪黒目の集団に取り囲まれたリタは、知らず知らずのうちに肩に力が入ってしまっていた。誰かに絡まれたらと思うと、恐ろしくて仕方がなかったのだ。


(……でもなぜか、皆私を遠巻きにしているみたいなのよね)

 

 正確には、リタではなく“リシャールが”距離を取られていたのだが、彼と常に行動を共にしていたリタには、そうだと分からなかった。嫌がらせをされるよりはずっとマシだが、そこはかとなく不気味さも感じてしまう。


 小さく身震いしたところで、後ろから「よっ」と声がかかった。隊列の中ですっと馬を前に走らせ、シャルムの隣につけたのは、長槍を背負ったひとつ結びの青年だった。


「なあ、無視すんなよ。リシャール」

「…………すまないね。聞こえなかったんだ」


「絶対嘘だろ」 


 口調は乱暴だが、からっとした笑顔を浮かべているからか、あまり気を悪くしているようには見えない。彼だけはシャルムに何度も声をかけてくるため、リタでも名前を覚え始めていた。確か――ヤンと言っていたはずだ。


「どうしてその娘を連れてきたの? いい加減、教えてくれても良くない?」

「……機密情報だからね」  


「怪しいなあ。――ねえ君、何ていうの?」


 シャルムに聞いても相手にされないので、ヤンの漆黒の瞳がリタに矛先を変えた。突き出された槍のようにまっすぐな視線からは、逃れられそうもなく、リタはつい口を開きかけてしまった。 


「……え、えっと」

「答える必要はないよ。今後関わることは無いだろうしね」


「邪魔すんなよっ。今言いかけてただろ」


 ヤンが声を荒げると、周囲の兵士達からうるさい、と苦情が上がった。これ以上は無理だと悟ったヤンは、いつか絶対吐かせるからな、と抑えた声で言い残すと、後方へと戻っていった。   

 


◇◇◇



 それから半日もしないうちに、一行はノワール王城へと到着した。じりじりと照り付ける太陽の下で、黒光りするノワール王城は、城というよりも要塞のようだ。四角い箱のような形をしており、屋根も平坦で、尖塔や飾り窓などの装飾も見られない。


(……なんかちょっと、怖いな)


 王城へ至るまでに、来訪を拒むような背丈の倍もある黒い壁を、3つ通り過ぎてきた。防衛に力を入れているのだろう。後ろ暗いことはないはずなのに、リタは門をくぐるたびに呼び止められるのではないかと、ひやひやしていた。


 

「それじゃあ、君の部屋に案内しようか」


 

 中庭で馬を使用人に預けながら、シャルムがリタの腰に手をかけた。ぐっと引き寄せられてドギマギしてしまったが、歩調が速いのは、焦っているからかもしれない。


(……ヤンさんが来ると、困るからかしら)


 道中も、気が緩む休憩のたびに、ヤンがやって来ていた。悪い人ではないのだろうが、シャルムに対してはほんのりと敵意を抱いているような気がして、リタもヤンが少し苦手ではあった。


 逃げるように中庭を去ると、リタはシャルムに導かれるまま、2階にある客間の1室に案内された。部屋の中央に据え置かれた天蓋付きのベッドに、アンティークの机やクローゼット。歴史の感じられる落ち着いた佇まいの内装は、豪華ながらも安らげそうだ。


「……っ」


 しかし、正面奥の壁に走る、縦長の窓に目をやったリタは、思わず息を吞んでしまった。


「どうかしたかい?」


 シャルムはリタの動揺に気付いていながら、敢えて明るい声を出しているようだった。だって、あんなに目立つものに気が付かないはずがない。

 


「……あ、あの、窓に――」  


 

 “格子”が付けられている。それも、外側ではなく、内側に。明らかに逃走を予防するためのものだ。一時成り行きでブランに渡っていたものの、リタは元はノワールの出身で、間者でもない。この男が、お母さんに会わせてくれるといったから、付いてきただけで……。


 

「わ、私を――どうするつもりなんですか?」



 咄嗟に戸口を確認してしまい、しまったと唇をかんだ。頭が動いてしまったので、これだけ密着していれば、ばれてしまっただろう。そもそも抱き寄せられた状態から、そう簡単に抜け出せはしまい。


 バクバクと脈打つ心臓の鼓動が聞こえていませんように、と祈るリタの腰から頭へと、シャルムの手が移動した。そのまま優しく頭を撫でられ、慣れない感触に胃がぞわぞわした。



「どうするつもりなんて、心外だな」

「…………」


「お母さんに、会いたいんだろう?」



 一言一言区切るように問いかけられた途端、唐突にどっと眠気が押し寄せてきた。頭のてっぺんから後頭部へと流れる掌に、怖かったことも不安だったことも、すべて拭い去られていってしまう。


 

「大丈夫、私を信じなさい。ここで待っていてくれれば、必ずお母さんに会わせてあげるから」

「…………はい」


   

 判然としない意識のまま、人形のように頷くリタの瞳を、シャルムが絡めとるように見つめた。


「……まだ、大丈夫そうだね」

「……?」


 自身が施した魅了の魔術。それが解ける兆しのないことを確認すると、シャルムはリタをベッドに座らせた。何度も瞬きをしている彼女の目元にそっと手を当て、囁いた。

 

「それじゃあ、私は仕事に戻るよ」

「…………はい」


 シャルムが手を離すと、リタの瞼はもうくっついてしまいそうだった。それを見たシャルムは、納得したかのように頷くと、立ち上がって戸口へと向かった。


 外側からカチャリと鍵をかける音が響いても、リタは惚けたように窓の外を見つめたままで、その目には格子など映っていないかのようだった。



 ――すやすやとリタが眠っている間に、ブランから身を潜めてついてきた二つの人影が、彼女を探して城内を動き始めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ