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第四話 塚田絵梨花 編

秋穂に勉強を教えてから帰宅した私は、恐る恐る玄関の扉を開いた。

「………た、ただいま。」

すると、リビングの扉が勢いよく開かれて鬼の形相をした母が詰め寄ってきた。

「絵梨花ちゃん!一体こんな時間まで何をしていたの!?あぁ、私の完璧な絵梨花ちゃんが何の連絡も入れずにこんな遅くに帰ってくるなんて信じられない!私の教育が悪かったの?あなたはこんなことする子じゃなかったのに!」

「ご、ごめんなさい……。」

私は思わず後ずさった。私が言うことを聞かなかったら、母はすぐにヒステリーを起こすことを知っていたはずなのに……。

やっぱり、真っ直ぐ帰れば良かった。

そんな私をよそに、母は時計を見て肩を落とした。

「だめだわ。こんなのじゃ。勉強の時間もこんなに減っちゃったじゃないの。」

「あの…。実は、学校で残って勉強を……。」

「そんなの駄目よ。世間体が悪いじゃない。完璧な絵梨花ちゃんは、学校で居残りをするような子じゃないもの。」

「でも…。」

「まぁ、いいわ。遅れた分を取り返せばいいんだもの。」

母は開き直ったように言うと、私から鞄を取り上げた。

「取り返す…?」

私が恐る恐る尋ねると、母はにっこりと笑った。

「今日は晩ご飯とお風呂を抜きにして、寝る時間を2時間延ばしましょう。そうすれば本来のお勉強の時間を確保できるわ。」

「え………。」

「何驚いているの。公務員から進路を絞るんでしょ。だったらしっかりお勉強しなくちゃ。」

「でも……。」

流石にご飯とお風呂抜きは…と言おうとすると、母に遮られてしまった。

「なりたいんでしょ。公務員に。ね?」

「……はい。」

「うん。いい子ね。それでこそ私の完璧な絵梨花ちゃんだわ。」

母は上機嫌で私の鞄を持ったままリビングに戻っていった。


私は……公務員になりたいんだっけ?


そんな疑問が頭の中に浮かんでは消えていた。


翌日、今日もホームルームの時間になった。

後は家に帰るだけだと思うと、気が重くなった。

先生は教壇に立つと真面目な顔で話し出した。

「今日は進路用紙を配ろうと思います。みんな自分の進路をよく考えて、親御さんと相談しながら書いてきてくださいね。もちろんこれで決定する訳ではないけれど…。だからといってふざけたり適当に書いたりしないこと。参考になりそうな本を幾つか教室の後ろに置いておくから、必要だったら読んで。」

そう言いながら、左の列から順にプリントを配布している。


進路用紙……。親御さんと相談。か。


相談なんかしなくても、母の意見は分かりきっている。

私の進路は、公務員一択なんだから。


私……私は、多分公務員にはなりたくない。

母が決めた人生は窮屈で息苦しい。

だから、これからの人生は自分で選んでみたい。


あれ……。


私のしたい事って、何?

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