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第二話 西浦秋穂 編

絵梨花と別れた私は、重たい足取りで家に帰った。

玄関を開くと、タバコとお酒と生ゴミの匂いが鼻についた。何故たった1日でここまで家を汚せるのか……。

私はいてもたってもいられず、ゴミを片付け始めた。毎日毎日、これの繰り返しだ。母は生まれてこの方片付けなどしたことがないのではないか。そう感じるほどだった。


けれど…。家事をするだけでいい1日は、私にとってまだマシなのだ。


ふいに、玄関から扉が開く音が聞こえた。私は息を潜めてじっと耳を済ませた。すると微かな話し声と、2人分の足音が聞こえてきた。私は、その足音にビクッと体を強ばらせた。

あいつが……。あいつが今日も来たんだ。

次第にその足音が近づいてきて、私がいるリビングの扉が開いた。

「あ………。おかえり、なさい。」

“あいつ”と目が合ってしまった私は、消えそうな声で挨拶した。


“あいつ”は、上機嫌な母と一緒にリビングに入ってくると、我が物顔で座り込んだ。

ここは…。私と父の家なのに……。

“あいつ”とは、母の彼氏の松永歩夢だ。父が亡くなってから突然母に紹介され、そこから半同棲のようになっていた。

母は隠しているつもりだろうが、私は知っている。松永とは、父が亡くなる前から関係を持っていたこと。そして、前夫との娘である私が邪魔なことも。


お父さんが亡くなる時に、私も一緒に連れて行ってくれたら良かったのに。そうすれば、私はこんな思いをしなくて済んだのに。

しばらく空想に耽っていると、松永が私に声をかけてきた。

「おい、酒とタバコ買ってこい。切らしてるんだから、すぐに行って来いよ。」

私は少しムッとしたが、松永の機嫌を損ねないような言葉を選んだ。

「未成年だから買えないよ。……ごめんなさい。」

“ごめんなさい”という言葉が、意図していなくても口から溢れるようになったのはいつからだろうか。心にも思っていないことを、息を吐くように呟いている。これは、私に出来る唯一の防衛手段だった。

「チッ。お前マジ使えねぇな。」

そう言うと、松永は持っていた空き缶を私に投げつけてきた。

これくらいなら、大したことない。いつもより、痛くない。

そう自分に言い聞かせていると、松永は立ち上がって私に近づいてきた。

「言うこと聞けないなら、お仕置きするしかないよなぁ。」

松永は、ニヤニヤしながら火のついたタバコを見せつけてきた。


また……する気なの?


私は呟くように“ごめんなさい”を繰り返したが、松永に腕を掴まれて火を押し付けられた。


痛い……。痛い痛い…。


私はすがるような目で母を見つめたが、母は楽しそうに笑っていた。

どうして…。

私が我慢してるのは、お母さんの為なのに。お母さんが松永を好いているから、こんな目にあっても耐えているのに…。

どうしてお母さんはいつも私を助けてくれないの。

理由なんて分かり切っていたが、それでも母にすがることを辞められなかった。

しばらくして、ようやく松永から解放されると、私は火傷した腕を手当した。傷だらけの腕を見ていると、堪えていた涙が溢れてくる。いつまで私はこのままなんだろうか。


誰か……。誰か助けて。私は、母から解放されたい……。

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