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  作者: 北極6号
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福音


目の前の鉄扉からは便所のような悪臭と熟成されたチーズのような香りが混ざり合った、なんとも言えない不快な臭いが漂ってくる。恐る恐る近づいて、少し錆びている扉に耳をくっ付けて室内の音を探ってみる。


ジュルルルルル……


――何かを啜るような不快な音が聞こえてくる。

更に意識を集中すると、僅かに衣擦れの音がしている事に気が付いた。


心臓の音がバクバクと耳の中で轟いている。人差し指と親指を擦り合わせて気を紛らわせていると、先ほど滲み出た手汗が当初の熱を失いヌルヌルとした冷水に変わっている事を感じる。やがては 自身の大きな呼吸音に意識が傾けられると、慌てて息を止める。

ピッタリと扉に張り付き、自分の身体がそれと一体となっているかのように全身を強張らせて硬直し、十数秒が経過しただろうか。

1秒…1秒…それらの間が気の遠くなるほどに長い。徐々に体内の空気が不足していくのを感じながら絶望的な時間を過ごしていると、首から顎にかけて熱がじんわりと漏れ出し、頭の天辺までそれが覆い尽くしていくと視界が震えだす。

ゴトリという重たい何かを置く音が静寂を破った。


「……いつまでそこで立っているつもりだ。死にたくなければ入れ。」


低くて野太い、中年程度の男性と思しき声がする。それは紛れもなくこちらを認識しているようだ。

飛び上がりそうな恐怖を必死に堪え、即座に扉から耳を離した。その弾みでブフゥと息が漏れ出し呼吸を再開するが、そんなことを気に留めても仕方がないので扉に視線を移す。

先ほどは気が付かなかったが、扉と壁の隙間からは僅かに白い布切れが飛び出している。横棒形のドアノブに手を掛けてみると、数十度ほど下に回った。

ずしりとした鉄の重みを感じながら、いよいよ扉を引いて中の様子を確認する。


フーッ、フーッ、……ジュルルルル


まず見えたのはラーメンだ。

直径にして30cm程はありそうな巨大などんぶりからホカホカと白い湯気が立っており、その側面には中華料理屋にありそうな四角をした渦巻模様がぐるりと一周している。

丼の中には、ほうれん草が緑の濃淡混じりに小山を作り、その隣には薄切りのチャーシューが薄ピンクと白の体に油を纏ってツヤを放っている。透き通った薄茶色のスープには黄金色の油が点々と光っており、鮮やかな黄色をした麺が電球の白っぽい光を受けてキラキラと輝きながら、一本の線を描いた滝のように昇天し、力士のような中年男性の巨大な顔へと流れ込んでゆく。


「あの……あなたは一体…」


「おっと待て、その前に布切れを挟んで扉を閉めろ。」


「はっ、はい…!」


慌てて布切れを拾い、それを壁に挟むようにして扉を閉める。

落ち着いてからラーメンを食らう中年男性を観察してみる。

先ほど垣間見たように彼の顔面は歴戦の力士のように威風を感じるものであった。地肌が見えそうな坊主頭、太めの眉毛は極太の黒毛がツンツンしており、眼光は鋭く、瞳は細く、それでいて鷹のような威圧感を醸し出している。首からは顎の肉がはみ出し、赤黒い乳首はどちらも屹立していて、繋がった乳房は大きく膨らんだ腹の上で丘を作っている。乳房と腹の谷を越え、ニキビや小さなほくろの混じる中、山を進んでまた肉の谷を越え、それでも進んでいくと腰の辺りにたどり着く。くたびれた白のブリーフがこの山脈を支えているのが見えた――――。


要するに太ったイカついオヤジがブリーフ一丁でラーメンを啜っているのである。

硬そうなコンクリートの地べたにあぐらをかき、膝程の小さなテーブルに身を屈めながら夢中で麺を啜っている。と思いきや、ふとこちらに向けて頭を擡げて微笑する。


「私の名はナポレオン。貴公の名はなんというのだ。」


「…は?」

「え、い、いや、実は記憶喪失で自分の名前が分からなくて……」


「なるほどそれは難儀だな……」


あまりにも想像を絶する光景に呆気に取られていると、別の気配を感じてそちらに視線を向ける。

ナポレオンの後方に置かれたベッドには、こちらにやや背を向けた人間があぐらをかいて身を屈め、なにやら何枚もの薄い毛布をこねくり回している。それは銀色と白の混じった長髪をしており、もみあげの辺りから仙人のように長く伸ばした白い髭を蓄え、痩せ型の老人であることが一目で分かる。

……そして当然のようにブリーフ一丁だ。


麺を啜る音がやかましいので、イラつきながら再びナポレオンに視線を戻す。


「えーと……ナポレオンって、とっくに亡くなっている方だし…。」

「日本語を話すこともなかったと思うんですがね?」


「だが私がナポレオン・ボナパルトであることは紛れもない事実だ。」

「……何故ならば神がそう言ったのだからな」


「ワシはそんなこと言ってないッ!!!!!」


矢庭に老人が――もとい神が声を荒げて振り向いた。

やがて立ち上がると、かけ布団を持つかのように結び合わせた布を拾い上げ、バサッという音と僅かな風を立ててシワを伸ばす。結び合わせた毛布を背中から羽織って片方を腕の下に回し……複雑なのでよく分からなかったが、テキパキと古代ローマ人のように布を纏ってみせた。

布の結びが歪なせいか、こんもりとした男性器の形を思わせるブリーフが丸見えのまま存在感を放っている。

よく見るとそれはかなり黄ばんでいる……


 「~♪ ~♪」


老人はなにやら讃美歌のようなメロディーを口ずさみながら、ブリーフに右手を突っ込んで股間をまさぐっている。やがて肛門の方まで手を回すと、茶色の物体を付着させた右手をあらわにした。

そうして顔の前で右手を握り、茶色がベッタリと付着した人差し指を開く。


「この愚か者に祝福を与える…」

「エンチャント・セイント【聖属性付与】」


そのまま人差し指をラーメンに突っ込んだ。

味噌属性付与ってところかな。


もっと書きたかったんですが、くどいので一旦切ります。

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