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22名の天使達  作者: ヒズモ・ハキ・ムシミ
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はじめての任務1

 

 アガサキ公園という場所がある。公園は狭く古いもので、それに加えて近くに新しくできた大きな公園があることからあまり子どもは寄り付かない。一日に一、二人くらいの子どもが来る程度である。

 夕暮れ時、そこで一人の少女が遊んでいた。新しい公園で遊ばないのは彼女が人見知りだからであることに加えて、この古い公園が彼女の特別な場所であったからだ。


 他の子どもたちが寄り付かない公園というのは、いかに古くても、狭くても、少女にとってそこは—秘密基地のような—自分だけの場所であるという特別感が得られる場所なのだ。

 

 その日も少女はボールを蹴って遊んでいた。ぽんぽん蹴って乗りに乗ってきたところ、ボールがころころ転がり落ち、公園の外へと出てしまった。

 ボールはそのまま公園の外へ転がっていく。少女が追いかけてボールを拾って空を見上げると、ふいに自分の立っている場所が見慣れない景色であることを知った。紫と青と白が織り交ざった空がすごい勢いで流れていて、あちこちに見慣れない妖しげな建物が蜃気楼のように揺らめいて立ち並んでいた。

 

 「ここ、どこだろ…」


 少女の手からボールがぼとりと落ちて、足元から遠ざかっていく。しかし少女がそれを追いかけることはなかった。

 景色の中から聞こえるラッパや小太鼓、笛、いろいろな楽器の音色が薄っすらと聞こえてくるのだ。その音色のなんと美しく、楽しげなことか。少女の目線はあの景色の中に釘付けになっていた。


 あの中に行ったらきっと楽しいことがあるのではないかしら…


 少女はなにか得体のしれない魅惑にまるで憑りつかれたかのように、景色の中へ吞み込まれていくのであった。

 

――――


「新入り、今日が初めてだろ」


 青い首巻をぴしっと巻き付けて、青い髪に赤いメッシュを染めた髪の天使が見上げて話しかけた。身長が約4フィートほどしかない彼女からすれば、話しかけた相手は大変大きく見えた。子どもと大人くらいの身長差である。それでも彼女が臆せずに気安く話しかけたのは、彼女が相手よりも先輩であるからだ。


「はい、先輩」


 薄緑の髪に白のメッシュが織り込まれている天使、わかばは自らを見上げてきた先輩に対して、ジャケットに腕を通しながら答えた。うるまより背の高い、青年の姿をした彼はついこの間降りてきた天使である。

 降りてきたばかりの天使は、まず自分より先に降りてきた天使の後に付いて、太陽の国のことや(インプルスス)についてを学ぶ。わかばは自分より数か月先に降りてきたこの天使の少女、うるまに付いて天使としての活動を管制塔に閉じこもって学んでいた。

 そして今日は、彼が初めて管制塔から出て天使としての任務を全うとする日である。この日のために様々なことを学んできたわけであるが、任務の最初はやはり不安だったとうるまは過去を思い出していた。自身の装備を確認しながら傍目に今回の新入りを見れば、新入りはジャケットに描かれた意匠を見てなにやら考え事をしているようだった。


「緊張してるのか?」

「…緊張しているかもしれません」


 わかばが不安げに呟いてジャケットのボタンを留めれば、うるまはあははと笑って彼の背中を叩いた。うるまが新入りだった頃、先輩からよくこうしてポンポンと叩かれ元気づけてもらっていたのである。そのとき叩かれていたのは肩だったが。うるまの身長ではわかばの肩には惜しいことに届かなかった。わかばの背中からパンと音が響く。


「オイラがいるからさ、そう気張るなよ」

「はい、先輩」


 先輩の励ましの手に痛みと驚きで若干背中をそらせながらもわかばは笑って答えた。もしかしたら苦笑いになっているかもしれないと思いながら。

 その姿を見てうるまはににっと笑ってから、一度咳払いをして棚から蝋燭立てを手に取った。その蝋燭立てをわかばに差し出して、今回の任務について語りだした。


「じゃあ、今回の任務の確認をするぞ…

 

 本日の夕方、22番地区のアガサキ公園近くにインプルススの結界が発見された。結界は前にも言った通り、インプルススとこの国を繋いでいる境目だ。


 結界の入り口には一足の女児向けの靴と、ボールを発見、そして同じ時間帯に公園の近所に住んでいる女の子が行方不明になっている…」


「つまりその女児が結界に巻き込まれた可能性が高いということですか?」


 わかばはそう言ってうるまから蝋燭立てを受け取った。うん、とうるまの短い髪が揺れる。


「そのとおり」


 うるまも自身の分の蝋燭立てを持って、部屋を出る。わかばも彼女に続いた。


「そして今回のオイラたちの任務はその女児を発見、救助することだ」

「結界の方は何もしなくていいんですか?」

「結界は別の班が取りかかることになってる、…オマエはまだ初心者だし、まずは簡単なことから始めたほうがいい」

「わかりました」


 階段を一段、二段と降りていき、やがて階段を照らす明かりさえなくなって暗さが増していった。段差に注意しながら階段を下りれば、そこには石で作られた独房のような扉があった。わかばがここに来たのははじめてのことで、あたりを注意深く見回すと扉の下には薄くラグが敷かれていて、赤紫色をした幾何学模様が描きこまれている。

 うるまが先導して扉を開けると、-やはりそこも石で作られた—薄暗い部屋があった。部屋自体は広く、部屋の中央に大きな台座の石が置かれていて、その上にはさきほどのラグと同じように赤紫色に幾何学模様が描かれたクロスが敷かれている。さらに壁際には様々な呪いに関する道具が棚に置かれている。


「いわばこの部屋は儀式の部屋だね」


 うるまは部屋へ入ると、中央の台座へ蝋燭立てを置いた。そしてマッチを懐から取り出して、すりかわに擦りつけた。ジュッと音を立ててマッチ棒に火がついて、うるまの顔をオレンジ色に照らし出した。


「何の儀式かはもうわかるだろ?」

「結界に行くための儀式ですね」

「ご名答、じゃあ結界にすぐ行くやり方を覚えてるよな?」

「ええ、この蝋燭に火を灯すんですよね?」

「うん、この部屋から例の結界に行くんだ」


わかばもうるまからマッチの箱を借りてマッチ棒に点火する。ジュウウと音を立てて、2つのマッチについた微かな火だけが部屋を照らした。


 「制限時間はこの蝋燭の火が消えるまでの3時間、それ以上は徒歩で帰るか、戻れなくなる

 戻るときは、持っている皿を割るんだ」


 質問はあるかうるまが聞けば、わかばはありませんと返して表情を緩ませた。

 その顔には不安はすでになくなっているようだった。うるまは歯を見せて笑った。

 

「じゃあ、行くぞ

 オイラのあとについてこい!」


 二人が蝋燭に火を灯した瞬間、二人の体はすっと消えて、静かに光る蝋燭の明かりだけが残った。

 石の台座を照らす二つのオレンジ色の炎。それとは関係なく、台座のクロスに描かれる幾何学模様が赤く鈍く光りだして部屋を柔く照らしたのであった。




更新激遅です。よかった!と思われた方評価お願いいたします(#^^#)

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