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俺だけ女神の『祝福』がなかった、どういうことだよ─私の愛し子が自分の価値に気づいてくれない─

 異世界に来て三年。俺は未だ、何も出来ないまま、蹲ったみたいに日々を過ごしている。

 いや、実際に蹲ってばかりいるわけではない。比喩表現としてだ。一応、その日暮らしの冒険者稼業なんかやってはいるし、どうにか食いっぱぐれに遭ったことも、そりゃあ一度二度はあるが長期的な経験もない。

 

 単純に、不貞腐れてやさぐれた心境でいるだけなんだ。この世界にたくさんいる『他の転移者』たちに比べて、あまりにできることが少ない俺自身を省みて、蹲っていると思っちまってるだけなんだ。

 

 そう、『他の転移者』たち。どうしたことかこの世界、しょっちゅう俺みたいに何ぞあってかよその世界からやって来た者たちがいて、俺なんて別段、特別でも何でもない有象無象の一人なのだ。

 

 それだけならまだ良い。不貞腐れるような話でもない。

 問題は、俺以外のそういう『他の転移者』たちが、世界を越える際に俺も会ったけど──女神なんちゃらいうのから、とんでもない強力な、いわゆるチートスキルをもらっているってことなんだ。

 

 それを使えば一騎当千、あるいは天下無双。世界なんてどうにでもしちまえるような能力を、たった一人、俺という例外を除いてあの女神なんちゃらは『他の転移者』に渡してやがったのさ。

 つまり俺は、俺だけはどうしてかハブられたってことに、気付いたのは転移してから数ヶ月してからだ。そもそもそんな便利なチートに、纏わるやり取りすらも一切なかった。『他の転移者』たちには懇切丁寧に説明しているらしいにも関わらずだ。

 

 挙げ句、そのチートを『神の祝福』だのなんだの言っていたらしい、女神なんちゃら。

 じゃあ何か、俺には祝福とかいらんかったのか。嫌々、事務的に、義務的に、異世界に転移してもらいます云々の説明してたってのか、俺相手にだけ。

 そんで俺だけ、『他の転移者』たちは先達は言うに及ばず後進たちもあっという間に世界に躍り出ている中で俺だけ、その日食うや食わずとまではいかんが、贅沢なんて考えられない細々した暮らしってのかい。

 

「ふざけんな! やってられるか、クソ!」

 

 憤りがついつい口に出つつも、俺は溝に溜まった泥をスコップで取り除いていく。冒険者とか言っても、魔物とやり合う力もなけりゃあこんなもの、町の雑用何でも屋だ。

 汚ればかりが身に付いて、底辺冒険者らしい、惨めったらしい有り様だよ。

 

 空を見て、その青さに反吐が出る。

 世界各地で絢爛たる活躍をしていらっしゃる『他の転移者』様にはきっと美しいこの空も、今の俺には溝同然の汚濁の空だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼を、私が見初めた愛し子をあの世界に送り込んでから三年。未だに、彼は己の価値に気付いていない。

 来て早々に『他の者』たちを見て、私に悪意を見出だしたらしかった。それからというものずっとこうして、心を損ねながら日々を過ごしている。

 

 どうして、こうなったのだろう?

 

 当たり前のことだが、私に彼に対しての悪意など欠片もない。愛しい、この世のどんなものよりも愛している方に、どうして悪意など持てようものなのか。

 彼は自分にだけ、私が『祝福』しなかったことを不快に思っているようだが……それは誤解だ。彼を見た瞬間からこの世が滅びるまで永劫、私の身も心も魂だって彼のものだ、欠片残さず。

 

 そもそも『祝福』など、あのような詐欺めいたまやかしをどうして彼に与えられるものか。『他の者』たちは世界の発展のために尽力してもらう必要があるから与えたのであって、言ってしまえば『祝福』という名称すら欺瞞に過ぎない。

 

 大体、人に過ぎた力など与えれば、最初は良くてもいずれは必ず心を歪ませ暴虐に狂う。あるいは白痴に酔うか、それはともかく最終的には破滅する。そんなものだ、そういう風にしてある。

 彼らのいた世界での諺でいう、走狗というものだ。目的が果たされれば消えていく。それまでの道程で栄光や富を楽しめるのだから、対価としては十分なはずだ。

 

 だから、彼がそんなに卑屈になって、劣等感に苦しむ必要などどこにもないのだ。彼の価値は、強い弱い、格好いい悪い、賢い愚か、などそんなところにない。彼が彼であること、それこそが私の世界すべてに勝る価値なのだ。

 彼が自信を持てば、前を向いて生きられれば、それこそがあらゆるものに優れた生き方になる。それを、下らない『祝福』などという物差しに縛られているのは、私の心配りが至らなかったからに他ならないのだろう。あまりに申し訳ない。

 

 だから、今は準備を整えている。受肉し、彼を愛するただ一人の女として傍に仕えるだけの準備だ。

 狗風情に心を痛めるくらいなら、隣に行くから、どうか私を私だけを見ていてください。

 

 愛しています、ああ、楽しみです。

 『祝福』などよりずっと価値ある、私がずっと、傍におります。

 待っていてください──

この後めちゃくちゃ受肉した女神なんちゃらと凡人冒険者がざまぁっぽいことしたりしてイチャイチャする

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公のどこに惹かれているのかはわかんないけど 実際与えられた力なんてものはその人のためにならないという点は ほんとに共感します
[一言] 女神がキモイ! 主人公が腐る気持ちが分からない時点で駄女神決定!! 主人公には全力で逃げてもらいたい。
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