056
ニアの言葉を聞いたエキラドネは怪訝な表情を浮かべた。
「そんなこと無理に決まっているわ」
「うふふ、そう思うならその目でしっかりと見ておくといいですよ。
シャルルさん、あなた魔法使いでしたよね。私達を連れて外に瞬間移動することは可能ですか?」
ニアにそう尋ねられたシャルルは頷いた。
「この人数でしたら簡単なことです」
「そうですか。それでしたら、私が力を使った後に頼みますね」
ニアはそう言って深く息を吐いた。そして言葉を吐く。
「能力使用を一時限定解除。使用時間五分。使用範囲、私から半径10kmに設定。更に、言葉の影響範囲の詳細設定。ベルゼとブラスフェミー第三支部の建設資材に設定」
ニアはそう言って言葉を続けた。
「ベルゼさん、聞こえるかしら? 時間がないから手短に言うわ。今からここの施設は鉄骨とコンクリートが急速な経年劣化によって崩れ落ちてこの施設ごと崩れ去るわ。出来るだけ早くてできて頂戴ね」
ニアはそう言うとその場に膝をついた。
「やはり、切り札は疲れますわね。さて、時間が無いのでシャルルさんお願いできますか?」
ニアはそう言うと額に汗を滲ませながら微笑んだ。
シャルルは皆を連れ、外に出た。それと同時に今の今までいた施設は激しい音を立て、崩れ去った。
「いったいどうなっているの?」
「お母様の能力は自分が言ったことがその通りになる能力なのさ。だけど、言葉が届く範囲は限りがあるでしょ。でも自分の能力を自分にかけることによって能力の限界を引き上げたのさ」
「…規格外が過ぎるわ」
エキラドネはそう言うと頭を押さえた。そんなエキラドネにニアは近付く。そして、首輪に優しく振れた。
「そう言えば邪魔者がいるわね。もう少し時間が残っているから、この子には遠くにいってもらいましょう」
ニアはそう言うと首輪に振れたまま命令を下した。
「貴方はどこか遠くを転々としてもらいましょう。追手が近付けばそれに合わせてまた別な遠くの場所へと移動してくださるかしら」
ニアがそう言い終わるのと同時にどこからともなくベルゼが現れた。
「流石に死ぬかと思ったぜ。迫りくる瓦礫に押しつぶされる所だったよ」
ベルゼは服についた埃を払いながらそう言った。
「さて、全員揃ったところで帰りましょうか」
「全員って、まだ執事が戻ってきてねぇじゃねえか」
ベルゼがそう言うとニアは冷たい目線をベルゼに送った。
「いいえ、これで全員よ」
ニアはそう言うと少しよろけながら歩き出した。