052
一方、モニカは自身の能力を使い、壁をすり抜けて一直線に進んでいた。それからしばらく進むとニア同様に広間に出た。そこにはジーパンにTシャツといったラフな格好をしている如何にも好青年といった感じの首輪を付けた男が立っていた。
「うわ、面倒臭いなぁ。貴方も首輪の人でしょ? 通してくれないかな?」
「それはちょっと難しいですね。通りたくば、というやつですよ」
トリガーはそう言って笑顔を浮かべた。
「別に殺さなくても通れるけど、その胡散臭い顔がなんだか気に食わないから殺しちゃうね」
モニカはそう言って一歩踏み出す。トリガーはその瞬間、モニカに人差し指を向けて空気を弾丸の様に変換すると、それをモニカへ向けて撃ち込んだ。空気を弾丸に変換している為、トリガーの攻撃は全く持って見えない。
その見えない弾丸はモニカの眉間を貫いた。だが、それは自分の意思で触れようと思わない限り、物体に触れられないモニカにはダメージを与えられなかった。しかし、何かが当たった感触はあるため、モニカは少し驚いた。
「うわっ、ビックリした~。お兄さんは何かを飛ばせるみたいだね。でも、モニカには効かないよ。だってモニカには誰も何も触れないんだもん」
モニカはそう言って微笑む。しかし、それは間違えであった。確かに誰も何も触れられないが、モニカに触れられる条件が二つある。それはモニカが寝ている時、もしくは不意を突かれた時である。では、何故先程不意を突かれ、眉間にトリガーの攻撃がきたのにダメージを食らうことが無かったのかというと、それはトリガーが攻撃を仕掛ける素振りを見せたからだ。モニカは自分の能力を無意識に発動したり解いたりしていることに気が付いていない。
モニカは少しずつトリガーへと近付いていく。トリガーは自分の能力を隠すことなくモニカへと弾丸を打ち込むが、モニカには通用しなかった。
とうとうモニカはトリガーの眼前に立つ。
モニカはトリガーの顔を見上げるとニコリと笑った。そして、拳を握ると躊躇うことなく腹部へとその拳を放った。腹部へと拳が来ることを予想していたトリガーであったが、少女とは思えない程の拳の重さに思わず膝をついた。
「ふふ、モニカねー、こんなことも出来るんだ」
膝をついたトリガーに対してモニカはそう言うと両手を大きく広げ、それを蚊を叩き潰すようにしてトリガーの胸あたりを叩いた。
その瞬間、トリガーは経験のした事のない激痛を感じ、口から血を噴出した。何が起こったのか分からないトリガーは胸元を見る。すると、そこにはモニカの手が自分の体を貫通しているのが見えた。
「て、てめぇ、何しやがった」
トリガーには先程までの好青年といった感じは無くなっており、鋭い目付きでモニカを睨んだ。
「肺を潰したんだ~。さっきも言ったけど、モニカは触りたいものだけ触れるの。だから、皮膚も骨もすり抜けて肺だけ潰したの」
モニカはそう言ってトリガーの体内で肺を更に握りつぶした。生きたまま臓器を弄られたトリガーは段々と意識が遠のいていく。しかし、トリガーも首輪の野良犬の一員である。首輪の力で潰された肺は普通ではあり得ない速度で修復していく。
「えー、気持ち悪い。こんな感触初めてだよ。潰した肺が手の中でうようよって動いて、元通りになっていくの」
モニカはそう言って何度も楽しむようにトリガーの肺を潰した。すると、モニカの背中に急に激痛が走った。
「えっ?」
モニカは何が起きたのか理解出来なかった。そして、それを理解する前に体中を何かが突き抜ける感触が走り、そのまま意識を失った。
「チッ、クソが…、体の中に手を入れたまま死んでんじゃねぇよ…」
トリガーはそう言いながらモニカの手を掴むと強引に自分の体から引き抜いた。血が辺り一面に広がる。
「はぁはぁはぁ、畜生、まだ体の中に変な感触が残ってやがる。
…とにかく上官に連絡だな」
トリガーはオルカを逃がした失敗からモニカが目を覚ますのを警戒して、自身の能力で意識のないモニカに攻撃しながらレグノへと連絡を取った。
「上官。先程エルドルトの一員と思われる少女と戦闘。そして、殺害しました。復活の可能性を考慮し、現在も攻撃中です。如何致しましょうか」
「…そのまま攻撃を続けた状態でこちらへと持って来い。エルドルト達は早ければ10秒ほどで目を覚ます。仮に目を覚ましたとしても5秒ほど能力を使うまでのラグが出る。目を覚ましたら5秒以内に殺せ。特にそいつは厄介だからな。念入りに殺せよ」
「了解しました」
トリガーはそう言うとモニカを抱きかかえ広間を後にした。