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交渉人がやってきた次の日の晩、エルドルト家はブラスフェミー第三支部へと向かう準備をしていた。すると、そこに一人の来客が訪れた。その来客とは長身、長髪に方眼鏡をした男、シャルルだった。
シャルルが現れたことによってエルドルト家の皆はいつもの場所に集合した。
「お久しぶりですね」
シャルルはニコニコしながらニアにそう言った。
「何の御用かしら? それに勝手に来られては困ります。ちゃんとアポを取ってもらわないと。要件次第ではただでは済みませんよ。私は今、とても機嫌が悪いですからね」
ニコニコしているシャルルとは対照的に怒りを隠そうとしないニアはシャルルにここへやってきた要件を尋ねた。
「いえ、風の噂でブラスフェミーと総力戦をすると聞いたものですから、是非私も参加させていただきたいと思いましてね」
「…理由はそれだけですか? そんなくだらない事を言うために私の時間を使ったというわけですか?」
「おっと、そんなに怒らないでください。ここに来たのはそれだけではありません」
「手短に」
「実はそちらのリーファさんをお借りしたいと思っているのです。もちろんタダとは言いません。お借り出来るのであれば、不老不死について私の知り得ている情報を全てお話いたします。それと、私が所持している『手鏡』の半分を差し上げます」
シャルルの手鏡という単語にニアの眉毛がピクリと動いた。
「…成程、それは随分とこちらにとってメリットの大きな話ですが、あなたにもメリットはありますの?」
怒りが静まったニアは静かな口調で話した。
「リーファさんを借りられるというだけで充分過ぎるメリットです。あっ、後もう一つお願いがあるのですが、もしリーファさんを貸して頂けるのであれば、私とリーファさんは別行動をしたいのですが。もちろん邪魔はしません。こっちはこっちで動きます。手伝えと言うのならもちろんお手伝いいたしますが」
「そちらにメリットがあるのならば私は別行動で構いませんが。リーファもそれでよろしいでしょう?」
「え、あっ、はい! ニア様がそう仰るのであれば、私はその命令に従うだけです」
「だ、そうよ」
「恩にきります。ではこちらがその手鏡です。手鏡と言っても枠から外れた鏡の半分ですが」
シャルルはそう言うと懐から半分に割れた半円の鏡を取り出し、ニアに差し出した。
「呪いの秘密はブラスフェミーから帰って来た時にでも。
それでは今日からリーファさんをお借りしますね。作戦会議など準備がありますので」
「えぇ、ご自由に。明日はくれぐれも私達の邪魔だけはしないでくださいね」
「もちろんですよ。それではお休みなさいませ」
シャルルはそう言ってリーファを抱き寄せると指をパチンと鳴らして、皆の目の前から消えた。
「さて、とんだ邪魔が入りましたが我々はブラスフェミーへ向けて出発致しましょうか。彼みたいに瞬間移動でも使えたら楽なのでしょうけどね」
ニアがそう言うと皆は立ち上がりブラスフェミー第三支部へと向け、行動を始めた。