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レグノの思ってもみなかった行動に野良犬達は呆然とその場に立ち尽くした。
「…終わったの?」
「いや、終わってないさ」
トルクがそう呟いた後、すぐにトルクの背後から声がした。その声を聞いたトルクは勢いよく背筋を伸ばし固まった。そして、ゆっくりと振り返る。するとそこには先程目の前で死んだはずのレグノの姿があった。トルクはレグノの脇腹に目をやる。服に血は滲んでいるが出血している様子はない。再び視線をレグノの顔に戻した瞬間、トルクの視界は暗転した。レグノがトルクの首をへし折ったのだ。
「おい、お前ら、あんまり調子に乗るなよ」
重く響く声に野良犬達の体は震え出した。たった一声だけで自信達との圧倒的な戦力の差を思い知らされた。しかし、ここを乗り切らなければ自分達の明日はない。震える体を奮い立たせ、立ち向かう勇気を見せた。
「ほう、主人に逆らう、か。それなら仕方がない。もう一度徹底的に主従関係をその体に叩きこんでやるよ」
レグノはそう言って一歩前に踏み出した。すると、野良犬達の前からレグノは姿を消した。野良犬達は辺りを見渡す。
「エキラドネ! 後ろだ!」
いきなりトリガーが叫ぶ。エキラドネの後ろにレグノの姿が見えたのだ。エキラドネは振り返るがそこにレグノの姿はない。
「フェイントだよ。まずはお前からだ」
エキラドネの後ろにいたはずのレグノはいつの間にかトリガーの後ろにいた。まるで手品を見せられているかのような感覚に陥った。そして、トルクの時とは対照的に時間をかけ、トリガーを殺した。それは一方的な蹂躙だった。
トリガーの胸倉を左手で掴むと残った右手で顔の形が変わるまで殴り続けた。残された野良犬達はそれを助けに入ることなく眺めていた。助けに入る余地などなかったのだ。一歩でも動けば次の標的が自分になってしまうのではないかと思ったのだ。抵抗しなければ自分に害はないのではないかと思った。命が助かるのならば喜んで靴を舐められる。目の前で繰り広げられている光景はそう思うには充分過ぎる程だった。
しかし、レグノは動かなかった犬たちを許してはくれなかった。掴んでいた胸倉を離し、倒れたトリガーの顔面を容赦なく蹴飛ばしてトドメを刺した。そして、残された野良犬達を見た。
「さて、次は誰がいい? まとめてかかってきてもいいぞ。但し、敵前敗走は一万回殺す。
ふっ、良かったな、死なない体で」